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第五部

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「で、それはそれとして、本当にシャシカのことはどうにかするよう考えた方がいいと思うんだよね」

 先ほどまでの雰囲気が霧散して、ピリッとした空気になる。さっきもさっきで緊張感はあったが、それとはまた、種類が違う。
 ――なにせ、命がかかっているのだから。

「まあ、マレーゼも薄々察してはいると思うけど、あの感じ、警護団はシャシカを野放しにするだろうし、そうしたらシャシカもまた来ると思うよ」

 警護団がシャシカさんを野放しに、という言葉には、やっぱりか、という諦めの感情しかない。それほどまでに、あの人たちは酷かったというか。
 仕事が面倒くさいから些細なことは放置、という姿勢のほうがまだマシなように思う。あの人たちは、今回の件を、本当にただの痴話喧嘩だと思っているのだ。

 対魔物ならば頼りになるのかもしれないが、対獣人が情けないほどに頼れない。

「僕は現役時代、シャシカより強かったから。あいつら、今でもシャシカを簡単に押さえられると思っているんだよ」

 イナリは呆れたように溜息を吐き、頭を片手で抱えた。
 確かに、イナリはシャシカさんよりも強いように見えた。でも、今、それは僅差だ。

 すでに冒険者を引退してしまって長いイナリと、現役冒険者のシャシカさんでは、もうそこまで差がないように思う。僅差でイナリが勝っているか、負けているか、判断に困るところではあるけれど、少なくとも、簡単に押さえられるわけではない様子は、わたしにも分かった。

「シャシカさんが分からない場所に引っ越す、とか……?」

 イナリが住んでいるのが、このセキュリティがザル過ぎるアパートなのも問題だと思う。もうすぐ家が出来るというのに引っ越すのはお金の無駄にも思えるが、かかっているものが命ならば仕方がない。
 そう思って提案したが、首を横に振られてしまった。

「仮に引っ越しても、シャシカならすぐに場所をつきとめると思う。それに、このボロアパートなら、まだ簡単に引っ越せるけど、今建ててる家に住むようになったらどうしようもないでしょ」

 確かに、そうだ。

「それに、あいつはまだ現役冒険者だから『特権』がある」

 特権。そう言えば、シャシカさんもそんなこと言っていたっけ。わたしが殺されたら、イナリが特権を使ってでもシャシカさんを殺しに行く、とかなんとか。
 話を聞けば、冒険者にはいくつか条件付きで犯罪を犯しても許される制度があるらしい。もちろん、それはなんでもオッケー、というわけではない、流石に。

 その特権の中の一つに、『窓や扉が破壊されて明らかに異変を感じられる家に関しては、無断で立ち入っても不法侵入に問わない』というものがあるらしい。一般人でも明らかに怪しければ様子を見に行ってもいいんじゃないの? と聞いてみたが、この国の現在の法律では駄目なのだとか。
 言われてみれば、以前、魔物が町を襲った際に、場合によっては家の中の確認をする、ということが事後報告されたように思う。
 さらには、入った後、侵入者がいれば殺してしまっても罪に問われにくい、ということらしい。

「多分、シャシカこの辺の特権を利用して殺しに来ると思う。……シャシカが仮に『家の異変』を工作したとして、あの警護団がまともに捜査すると思う?」

 否定できない。むしろ、同意するしかなかった。
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