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第五部
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「資格って……」
人を好きだと言うのに、どんな資格が必要だというのか。
「僕は何もないし、何もしてこなかったよ。君のこと、警戒しかしてなくて、冷たい態度を取ってばかりだった」
イナリはこちらを見れないのか、視線が床に落ちる。
「フィジャは勉強と料理を君に教えて……そうじゃなくても料理が上手だし。イエリオは君の話についていけるし、命がけで君を助けた。ウィルフみたいな、分かりやすい地位と財力と、君を守るだけの力は僕にはない。――ほらね、何もないだろ、僕には」
そうやって一つ、一つと彼らの名前と具体例を出すたび、イナリの顔が暗くなっていく。
そんな顔をさせたいわけじゃないのに。
「……違うよ」
「違くなんか――」
「一番にわたしを助けてくれたのは、イナリだよ」
わたしは、イナリの言葉に被せるように、強く言った。
この言葉に、嘘はない。
「わたしが、この世界に来て、最初の夜。泊まるところがなくて、野宿になるかもってわたしを泊めてくれたのは、イナリでしょ」
彼はわたしにホテルを勧めることもできた。現に、わたしは宿泊出来るところを教えてくれるだけでも、と言ったはずだ。
それでも、彼は一晩わたしを泊めて、夕飯まで出してくれた。パンと、謎の果汁ジュースだったけど。
「そ、それは……。で、でも、それより先に、フィジャとイエリオでしょ。今の時代に来たばかりで困惑している君に、優しい態度を取ってあれこれ教えたのはあの二人だ!」
まだ言うか。でも、それでも――。
「それでも、イナリが最初だよ」
「は――」
正確には、助けようとした、だけど。
最初も最初、本当に一番初め。
――わたしが、転移してしまったウィルフの家で、住民と出会う前に逃げてしまおう、と、窓から飛び降りようとしたとき。
早まらないで、と止めたのはまぎれもない、イナリだ。
泥棒だ、侵入者だと叫んで、わたしを焦らせることも出来た。わたしは咄嗟に魔法を使うのが出来ない、魔法使いとしては落第点の魔法使いだから、もし焦って足でも滑らせて落ちたら、魔法を使って衝撃を和らげることが出来なかったと思う。
まあ、二階から飛び降りるだけなので、流石に死にはしないだろうけど、でも、怪我は免れなかったはずだ。
でも、そうはならなかった。
イナリが、早まるな、と、呼び止めてくれたから。
全て伝えれば、イナリは、今度こそ黙った。
それもそうだ。わたしがこの時代、この国に来て出会った一人目がイナリだから。これ以上ないくらい、『最初』だ。
「――それに、イナリがわたしに好きって伝える資格がない、って言うならわたしこそ、好きって言われるだけの資格がないよ」
人を好きだと言うのに、どんな資格が必要だというのか。
「僕は何もないし、何もしてこなかったよ。君のこと、警戒しかしてなくて、冷たい態度を取ってばかりだった」
イナリはこちらを見れないのか、視線が床に落ちる。
「フィジャは勉強と料理を君に教えて……そうじゃなくても料理が上手だし。イエリオは君の話についていけるし、命がけで君を助けた。ウィルフみたいな、分かりやすい地位と財力と、君を守るだけの力は僕にはない。――ほらね、何もないだろ、僕には」
そうやって一つ、一つと彼らの名前と具体例を出すたび、イナリの顔が暗くなっていく。
そんな顔をさせたいわけじゃないのに。
「……違うよ」
「違くなんか――」
「一番にわたしを助けてくれたのは、イナリだよ」
わたしは、イナリの言葉に被せるように、強く言った。
この言葉に、嘘はない。
「わたしが、この世界に来て、最初の夜。泊まるところがなくて、野宿になるかもってわたしを泊めてくれたのは、イナリでしょ」
彼はわたしにホテルを勧めることもできた。現に、わたしは宿泊出来るところを教えてくれるだけでも、と言ったはずだ。
それでも、彼は一晩わたしを泊めて、夕飯まで出してくれた。パンと、謎の果汁ジュースだったけど。
「そ、それは……。で、でも、それより先に、フィジャとイエリオでしょ。今の時代に来たばかりで困惑している君に、優しい態度を取ってあれこれ教えたのはあの二人だ!」
まだ言うか。でも、それでも――。
「それでも、イナリが最初だよ」
「は――」
正確には、助けようとした、だけど。
最初も最初、本当に一番初め。
――わたしが、転移してしまったウィルフの家で、住民と出会う前に逃げてしまおう、と、窓から飛び降りようとしたとき。
早まらないで、と止めたのはまぎれもない、イナリだ。
泥棒だ、侵入者だと叫んで、わたしを焦らせることも出来た。わたしは咄嗟に魔法を使うのが出来ない、魔法使いとしては落第点の魔法使いだから、もし焦って足でも滑らせて落ちたら、魔法を使って衝撃を和らげることが出来なかったと思う。
まあ、二階から飛び降りるだけなので、流石に死にはしないだろうけど、でも、怪我は免れなかったはずだ。
でも、そうはならなかった。
イナリが、早まるな、と、呼び止めてくれたから。
全て伝えれば、イナリは、今度こそ黙った。
それもそうだ。わたしがこの時代、この国に来て出会った一人目がイナリだから。これ以上ないくらい、『最初』だ。
「――それに、イナリがわたしに好きって伝える資格がない、って言うならわたしこそ、好きって言われるだけの資格がないよ」
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