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第五部

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 シャシカさんはどうやってこんな狭い場所から、ベッド下なんて狭い空間に移動したんだろう。無理では? 体の可動域どうなってんだ、あの人。
 確かにシャシカさんは小柄だったけど、それだけじゃ説明つかないと思う。冒険者が凄いのか、シャシカさんが凄いのか。
 しかも、既にわたしは全身土まみれ埃まみれな気しかしないのだが、あの人はそこそこ身綺麗だった。いや本当、どうして?

 じたばたと、なんとか這い出ようとして――気が付かれた。
 ベッドが動かされて、辺りが急に明るくなる。

 いくら魔法を使っている、とはいえ、全く気がつかれないのは無理だ。あくまで気配を消す魔法。完璧に姿を見えなくして、音も匂いも発生させない隠伏〈ロネス〉ではない。隠伏〈ロネス〉と違って身動きはとれるものの、隠れるという一点においては格段に質が下がる。

 なので、こうして見つかることも、普通にあり得るのだ。

「――何してるの」

 少し鼻が詰まったような声と、赤い目じり。……泣いていたのかもしれない。

「どうしても心配で……えへ」

 笑って誤魔化して見るが、あんまり効果は見られない。険しい彼の表情が、さらにむっとしたものとなる。

「一人になりたかったのも分かるんだけど、でも……。……。――あの、イナリ、ごめん、ここから出るの手伝って……」

 頭上からベッドがなくなったものの、それでもなお、わたしは床下から上手く這い出ることができなかった。
 呆れるような溜息にわたしは「面目ない……」と言う他なかった。

「しかたな――」

 仕方ない、と、イナリがわたしのわきの下に手を突っ込んで引き上げようとしたものの、すぐに手をひっこめてしまった。

「あ、ごめん、汚かった?」

 よくよく考えたら、今のわたしはどろどろだ。手を引っ張って貰えば……いや、それはそれで肩が抜けそうだな。

「どう引っ張れば――イナリ?」

 彼を見れば、目じりだけでなく、顔全体が赤くなっていた。

「だ、大丈夫? どうしたの?」

「う、うう、うるさい! 鍵開けるから外から入ってきて!」

「えぇ……」

 ここまで来たのに? ここから戻るのも結構骨が折れそうなんだが。
 でも、イナリはどたばたと玄関に向かってしまう。うーん、仕方ない。また戻るしかないか。
 わたしはのそのそと、再び床下に戻るのだった。まあ、外に出るだけなので、行きよりは楽だったのが不幸中の幸いか。

 ……イナリと話がしたいけど、先にシャワー浴びたいって言ったら流石に怒られるかな。服も体も、めちゃくちゃにドロドロである。

 シャシカさん、本当に、どういう出入りの仕方したんだ、あの人……。ストーカースキル、すごいなあ。感心するようなことでもないけど。
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