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第五部
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シャシカさんを拘束し終わったフィジャは、ちらっとわたしの方を見て、何かを迷って。そのまま大声で「フィジャ、警護団呼んできて!」と叫んだ。
この国には、一般家庭に通信機器がない。スマホどころか、固定電話すらないのだ。こういうとき、さっと通報できないのはかなり不便だと思う。
「わ、分かった!」
事情は伝えていないが、イナリの緊迫した声に、なにか察するものがあったらしい。フィジャの返事と、少しだけバタバタと走り去る音が聞こえた。
拘束したイナリは息が上がっているのに、抵抗しているシャシカさんに疲れた様子は見られない。それでも、布がしっかり縛られているからか、シャシカさんが拘束を逃れることは出来なかった。
「……なんで皆、僕に冒険者であることを期待するんだよ……」
ぽつり、とイナリがこぼした。
皆。
わたしはシャシカさんしか、イナリに冒険者でいてほしいという人を知らないけど、わたしが知らないだけでもっといるのだろう。わたしは今のイナリしか知らないから、楽しそうでいいんじゃない? という思いしかないが、周りはそうじゃないらしい。
「――強くて、かっこよかったからに決まってるだろ」
抵抗を諦めたのか、だるっと力を抜いてベッドの上に拘束されたまま転がるシャシカさんがイナリの呟きに答えた。
のろのろと、イナリが視線をシャシカに向ける。思わず、わたしもシャシカさんの方を見てしまった。
「イナリは知らないかもしれないけど、『冒険者・イナリ』は皆の憧れだったんだよ。狐種で、見てくれが悪いのに、実力があって、周りに信頼されて。アタシらみたいな奴の、憧れだった」
アタシらみたいな奴、というのは、言わずもがな、見た目で嫌われるような人のことだろうか。
シャシカさんはスレンダー美人で、正直、シーバイズにいたら、男を手玉に取って遊んで、適当なところで金持ちに嫁いで……ということが出来るレベルでモテると思う。
でも、この国――この時代、獣人文化の世界では違うんだろう。フィジャが、内ももにある、三色の鱗で悩んでいたということは、パッと見て、三毛猫の獣人だと分かるような、三色の髪色をしている彼女は、見た目をさげすまれる側の獣人だったに違いない。
そんな彼女は、憧れの冒険者に、まだ、『かっこいい冒険者』をやっていて欲しくて、わたしを殺す、なんて発想が出るほどだったわけだ。
「――今の僕は、かっこ悪い、ってわけ」
位置関係のせいで、シャシカさんを見るイナリの表情は見えない。
それでも、やけに自虐に満ちた声音だったことだけは、分かった。
シャシカさんは、肯定の返事も、否定の返事もしない。でも、彼女の言動と、今、この瞬間の表情が、全ての答えだ。
この国には、一般家庭に通信機器がない。スマホどころか、固定電話すらないのだ。こういうとき、さっと通報できないのはかなり不便だと思う。
「わ、分かった!」
事情は伝えていないが、イナリの緊迫した声に、なにか察するものがあったらしい。フィジャの返事と、少しだけバタバタと走り去る音が聞こえた。
拘束したイナリは息が上がっているのに、抵抗しているシャシカさんに疲れた様子は見られない。それでも、布がしっかり縛られているからか、シャシカさんが拘束を逃れることは出来なかった。
「……なんで皆、僕に冒険者であることを期待するんだよ……」
ぽつり、とイナリがこぼした。
皆。
わたしはシャシカさんしか、イナリに冒険者でいてほしいという人を知らないけど、わたしが知らないだけでもっといるのだろう。わたしは今のイナリしか知らないから、楽しそうでいいんじゃない? という思いしかないが、周りはそうじゃないらしい。
「――強くて、かっこよかったからに決まってるだろ」
抵抗を諦めたのか、だるっと力を抜いてベッドの上に拘束されたまま転がるシャシカさんがイナリの呟きに答えた。
のろのろと、イナリが視線をシャシカに向ける。思わず、わたしもシャシカさんの方を見てしまった。
「イナリは知らないかもしれないけど、『冒険者・イナリ』は皆の憧れだったんだよ。狐種で、見てくれが悪いのに、実力があって、周りに信頼されて。アタシらみたいな奴の、憧れだった」
アタシらみたいな奴、というのは、言わずもがな、見た目で嫌われるような人のことだろうか。
シャシカさんはスレンダー美人で、正直、シーバイズにいたら、男を手玉に取って遊んで、適当なところで金持ちに嫁いで……ということが出来るレベルでモテると思う。
でも、この国――この時代、獣人文化の世界では違うんだろう。フィジャが、内ももにある、三色の鱗で悩んでいたということは、パッと見て、三毛猫の獣人だと分かるような、三色の髪色をしている彼女は、見た目をさげすまれる側の獣人だったに違いない。
そんな彼女は、憧れの冒険者に、まだ、『かっこいい冒険者』をやっていて欲しくて、わたしを殺す、なんて発想が出るほどだったわけだ。
「――今の僕は、かっこ悪い、ってわけ」
位置関係のせいで、シャシカさんを見るイナリの表情は見えない。
それでも、やけに自虐に満ちた声音だったことだけは、分かった。
シャシカさんは、肯定の返事も、否定の返事もしない。でも、彼女の言動と、今、この瞬間の表情が、全ての答えだ。
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