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第五部

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 イエリオとそんな話をして。イナリにも、誰にも、獣人と人間は子供が出来ないかもしれない、という話を出来ずに、数日が経過してしまった。とはいえ、獣人たちが人間だと思っていたのが猿獣人だったかも、という可能性が浮上し、もしそれが本当なら獣人と人間のハーフの前例がないだけで、異種族間で子供が出来ないと決まったわけでもない。

 暗くなって落ち込んでいても仕方がない。もし悲しむとしても、わたしが彼らの子供を望んで、絶対に出来ないと確定してしまったときにすればいい。今はまだ、気にしなくても――とは思うものの、やっぱりちょっと気になってしまう。

 イナリはというと、ここ数日はずっと仕事に行くかわたしの服を作っているかで――あれ。
 ふと、イナリの帰宅が早くなっているような気がした。早くなっている、というか、ここにきたばかりのときは徹夜続きでクマを刻んでいたのに、それがすっかりなくなってしまったのだ。

 仕事が落ち着いたのかな、と思ったのだが、よく考えたら、今普通の服の制作チームが祝集祭の方に駆り出されているなら、祝集祭が終わるまでイナリも忙しいのでは? 店がどういう形態で業務を回しているのかわたしは知らないけど、祝集祭があるから仕事がイナリにまで回ってきた、っていう話じゃなかったっけ。
 不思議に思って聞いてみると、作業を止めずにイナリはあっけらかんと「没になった」と言った。

「えっ、あんなに頑張ってたのに!?」

「僕以外にもデザイン出したやつはいるし。……正当な評価だし、文句はないよ」

 折角あんなに描いていたのに、と思う反面、確かに正当な評価だったら仕方ないのかな、とも思う。ブスだからセンスがない、というあの理不尽な客のような言い分だったら文句もあったが、そうじゃないのならまだいいのか。
 イナリ本人も、不満はないみたいだし。

「ちなみにどんなの描いたんですか?」

「その辺にある。勝手に見れば」

 こちらも見ずに、イナリは床を指した。確かに、イナリが指さす場所には紙が散乱していた。
 勝手に見れば、と許可を貰ったので、わたしはそのデザイン画をぱらぱらとめくる。
 どれもこれも、女性もののデザインだった。確かに、あの店は冒険者の防具がメインで、一般の服も売ってはいるけど、どちらかと言えば男性寄りな店だったと思う。女性服も普通にあるけれど。

 それを考えると、女性服ばかり、というのは却下されるのかもしれない。それなのになんで女性服ばっかり描いたんだろう、と思いながらぱらぱらとデザイン画を見ていると、ふと、一枚のデザインが目に留まる。

「あ、これ、好きな感じ」

 シンプルながらも可愛さがあるワンピース。それを見て、わたしは思わず呟いていた。
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