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第五部

秘密

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 ある日の、フィジャの家での飲み会。
 ここ数か月、フィジャやイエリオが怪我をしたり、ウィルフに長期の依頼が入ったりで、なかなかいつものように集まって酒を飲む、というのが難しくなっていたが、今日はまた集まって酒を飲むことができた。

「イナリってさぁ、絶対マレーゼのこと好きだよね」

 唐突に、フィジャがそんなことをいい、僕は飲みかけていた酒を吹きださないようにするのが精いっぱいだった。

「ああ、分かります。マレーゼ、美人ですもんね」

 珍しく生き残っている――というのも変だが、酔いつぶれていないイエリオも、フィジャの言葉に賛同した。

 僕はびっくりして、ついマレーゼの方を見てしまう。酒が特別弱いわけではないはずの彼女は、一番に寝てしまっていて。今はソファーで横になっている。
 顔はこっちを向いていないので見えないが、規則的に肩が上下し、寝息も聞こえているので、きっと寝ているのだろう。

「い、いきなりなんだよ……」

 カッと顔が熱くなる。この熱さは、お酒のせいだけじゃない。

「やー、いきなりでもないよぉ。もうここまできたらそんなに警戒しなくていいんじゃない?」

「そうですねえ。元より人懐っこいフィジャと、前文明に関して好奇心しかない私とでかなり彼女には好意的でしたから。あのままではウィルフが仲間外れになるところでしたが、今はもう、大丈夫でしょう」

 確かに、向かいに座るフィジャとイエリオは彼女に最初から随分と好意的で。性格の差もあるんだろうけど。
 最初からそんなに友好的で大丈夫か、と、僕がしっかりしなきゃと彼女を必要以上に疑っていたのは否定しない。

 「もう大丈夫」という言葉に、いつもなら「うるせえ」とか「勝手に決めるな」とか、否定の言葉を投げかけるウィルフも、聞こえないふりをしているのか黙り込んだままだ。ちびちびと酒を飲んでむすっとしているが、無言の肯定なんだろう。
 彼女を好意的に見ている、ということの。

 まさに、後は僕だけ、という状況なわけだが……。

「か、勝手に好きって決めるなよ」

「いや、好きでしょ。イナリ、可愛い子すぐ好きになるじゃん。九割方、顔からだったし。十回も失恋して、酒で慰めてきたボクらが分かんないわけないじゃん」

 ぐうの音もでなかった。
 フィジャ達にこの手のごまかしが聞くわけもなく――また、マレーゼを好きだというのは事実なので。

「……でも、今更どう接したらいいかわかんないし」

 イエリオはともかく、どう見たって『モテない』側のボクらを、そんなことないと笑ってくれたマレーゼに対して、ずっと嘘だって、つんけんしてきたのだ。
 もしかしたら嘘じゃない、って分かってきたとしても、すごく、今更だ。

 彼女が困っているときに優しくしてあげたフィジャじゃない。
 彼女と一緒にいろんな話が出来るイエリオじゃない。
 彼女を守ってあげられるだけの力があるウィルフじゃない。

 ――僕には何もなくて、何もしてこなくて、ただ、僕が、僕らが傷つかないように彼女を拒絶してきただけだ。手を差し伸べようかと思っても、怖がって、壁を作ってきただけ。
 そんな僕が、今更、彼女に好きだと言う資格なんて、あると思う?
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