上 下
277 / 452
第四部

274

しおりを挟む
 ウィルフさんは自宅にいなくて、わたしは久々に索敵〈サーヅ〉を使った。魔法をあまり使わない、と決めた矢先にこれではあるが、回復量が落ちただけで回復しないわけじゃないし……街を歩き回って探すより効率的だし……と探した結果、一度も訪れたことのない区域にまで、魔法の飛翔体は飛んで行った。

 出来た『道』をたどった先には、冒険者ギルドに似た、でも、向こうよりは遥かに新しく感じる、大きな建物があって。
 その建物から、丁度ウィルフさんが出てくるところだった。

「――ウィルフさん!」

 思わず声をかけると、彼はぎょっとしたように、少し目を見開いた。

「なんでお前、こんなところにいるんだよ」

「ぼ、冒険者辞めちゃうって、聞いて、びっくりして、探しました」

「誰からその話――ああ、お前、ギルド長と仲良かったんだっけか」

 ウィルフさんはわたしの方に歩いて来ながらそんなことを言った。
 おろおろとするわたしとは対照的に、ウィルフさんは落ち着いている、というより、辞めることなんてどうってことない、と言わんばかりの態度だった。

「ここ出入り口で邪魔だから、少し歩くぞ」

 ウィルフさんに言われ、わたしたちは移動する。確かに、じろじろ見られるわけじゃないけど、ちらっとした視線はさっきから感じる。

 移動した先はちょっとした広場だった。噴水と人が座るためのベンチがいくつか並んでいて、遊ぶためではなく休憩する為の公園、と言ったところだろうか。
 時間的な問題か、あんまり人通りはなくて、散歩のために通った、という人がちらほらいるくらい。

 そんな中、ウィルフさんはベンチの一つに座ったので、わたしもその隣に座る。

「別に、今すぐ辞めるつもりじゃねえよ。辞める予定がある、ってだけだ」

 座ってすぐ、ウィルフさんはそう言った。

「イエリオの失敗した実験の埋め合わせとして採集依頼を受けたのがいくつかあるし、それが終わったら辞める予定ではあるが、その頃に俺じゃねえと受けられねえような討伐依頼があったら流石に断るわけにはいかねえし」

 あと数か月は続けるし、もしかしたら家が建った後も多少は続けることになるかもな、とウィルフさんは言った。

「元々、冒険者になったのはジェルバイドの情報を集めるためと当面の資金のためだったし、特級冒険者になると決めてからは、ジェルバイドを解放するのが目的で――そのあとは辞めようと思ってたんだよ」

 長く続けるつもりはない、という話を、フィジャ達にはもともと言っていたらしい。終わりがあることを親しい人には言っていて、そのつもりで生活してきたから、今更、わたしに言うのを忘れていたそうで。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

美醜逆転世界で王子様と恋をする

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:204

駄目な奴でもなんとか生きていこうと思います

BL / 連載中 24h.ポイント:782pt お気に入り:37

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:8,613pt お気に入り:3,825

The Stillness・Wind-静者の番人と亡霊の謎-

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:214pt お気に入り:4

異世界転生〜色いろあって世界最強!?〜

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:1,045

ベルズ・ナイト・カフェ

BL / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:5

元カノ幼馴染に別れを告げたらヤンデレになっていた

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:881pt お気に入り:0

処理中です...