271 / 452
第四部
268
しおりを挟む
「このままだと全員落ちる。誰が死ぬべきか、君だって分かるだろう」
大柄なウィルフさんの先にいるジェルバイドさんの表情は見えない。
でも、随分と落ち着いた声音なのは、ここからでも分かった。
「――嫌だ」
ウィルフさんの、泣きそうな声。彼の表情も、また、ここからじゃ見えない。
なんとか二人まとめて引き上げられないかと頑張ってみるが、正直、今こうして落ちないように掴んでいるだけで結構しんどい。どこにどう力を込めれば引き上げられるのかが分からない。
「馬鹿なことを言うな。特級冒険者にもなって、今判断に迷うことがあるか? ……今回ばかりは、護衛依頼が失敗しても文句は言われないさ。だって死ぬのはこのオレ――」
「嫌だ!」
ぐ、とウィルフさんが動く。ジェルバイドさんを引き上げようとしているのか、身じろいでいた。
「俺は! 俺はあんたに助けられたんだ! それなのに、今、あんたを見捨てられるわけがねえ! 周りのことなんか知らねえ、俺はあんたに死んでほしくない!」
ウィルフさんは叫ぶ。
「――っ、アンジュに会わないまま死んでいいのかよ!」
「――っ!」
その言葉にはっとなったのか。
ウィルフさんの体が大きく揺れる。ジェルバイドさんが、ウィルフさんの体を伝ってのぼってきていた。
ウィルフさんの体が揺れるごとに、がくがくと、わたしの腕も震える。限界が近い。
ジェルバイドさんが橋の上に身をのりだし、ほとんどのぼりきったところで、わたしは思い切りウィルフさんを引き上げた。一人だったら何とかなる。
「――重い!」
腕が限界で引き上げることだけを優先したので、わたしの体の上にウィルフさんが重なる。
へろへろになったわたしは起き上がることもできず、ウィルフさんを跳ねのける体力もない。それどころか、彼が立ち上がってからもなお、わたしは起き上がれなかった。
でも、顔だけ動かして、二人が無事、橋の上に戻ったことは確認する。良かった、本当に良かった。
「なんでそんな奴、たすけ――ひっ」
ウィルフさんに食ってかかっていた大柄の男が非難しようとして、悲鳴を上げていた。
「この人を殺したいなら、護衛の俺を殺してからにしろ」
じとり、と睨む、ウィルフさん。特級冒険者である彼の、殺気まじりの視線に耐えられなかったらしい。
さっきまでの勢いはなく、言い返したいものの、ウィルフさんが怖くて何も言えない様子だった。
大柄の男も、ジェルバイドさんを突き落とした女性も、ウィルフさんの気迫に負けて、黙り込む。
これでビビるくらいなら、最初からつっかからなければいいのに。
誰も何も言わないことを確認すると、ウィルフさんはわたしに手を差し出してきた。
「いつまで寝てるんだ、さっさと行くぞ。またこんなことがあったら困る」
「はぁい……」
手を借りて、よいしょ、とわたしは立ち上がる。その瞬間、小さい声で「助かった」と言われたのを、わたしは聞き逃さなかった。
大柄なウィルフさんの先にいるジェルバイドさんの表情は見えない。
でも、随分と落ち着いた声音なのは、ここからでも分かった。
「――嫌だ」
ウィルフさんの、泣きそうな声。彼の表情も、また、ここからじゃ見えない。
なんとか二人まとめて引き上げられないかと頑張ってみるが、正直、今こうして落ちないように掴んでいるだけで結構しんどい。どこにどう力を込めれば引き上げられるのかが分からない。
「馬鹿なことを言うな。特級冒険者にもなって、今判断に迷うことがあるか? ……今回ばかりは、護衛依頼が失敗しても文句は言われないさ。だって死ぬのはこのオレ――」
「嫌だ!」
ぐ、とウィルフさんが動く。ジェルバイドさんを引き上げようとしているのか、身じろいでいた。
「俺は! 俺はあんたに助けられたんだ! それなのに、今、あんたを見捨てられるわけがねえ! 周りのことなんか知らねえ、俺はあんたに死んでほしくない!」
ウィルフさんは叫ぶ。
「――っ、アンジュに会わないまま死んでいいのかよ!」
「――っ!」
その言葉にはっとなったのか。
ウィルフさんの体が大きく揺れる。ジェルバイドさんが、ウィルフさんの体を伝ってのぼってきていた。
ウィルフさんの体が揺れるごとに、がくがくと、わたしの腕も震える。限界が近い。
ジェルバイドさんが橋の上に身をのりだし、ほとんどのぼりきったところで、わたしは思い切りウィルフさんを引き上げた。一人だったら何とかなる。
「――重い!」
腕が限界で引き上げることだけを優先したので、わたしの体の上にウィルフさんが重なる。
へろへろになったわたしは起き上がることもできず、ウィルフさんを跳ねのける体力もない。それどころか、彼が立ち上がってからもなお、わたしは起き上がれなかった。
でも、顔だけ動かして、二人が無事、橋の上に戻ったことは確認する。良かった、本当に良かった。
「なんでそんな奴、たすけ――ひっ」
ウィルフさんに食ってかかっていた大柄の男が非難しようとして、悲鳴を上げていた。
「この人を殺したいなら、護衛の俺を殺してからにしろ」
じとり、と睨む、ウィルフさん。特級冒険者である彼の、殺気まじりの視線に耐えられなかったらしい。
さっきまでの勢いはなく、言い返したいものの、ウィルフさんが怖くて何も言えない様子だった。
大柄の男も、ジェルバイドさんを突き落とした女性も、ウィルフさんの気迫に負けて、黙り込む。
これでビビるくらいなら、最初からつっかからなければいいのに。
誰も何も言わないことを確認すると、ウィルフさんはわたしに手を差し出してきた。
「いつまで寝てるんだ、さっさと行くぞ。またこんなことがあったら困る」
「はぁい……」
手を借りて、よいしょ、とわたしは立ち上がる。その瞬間、小さい声で「助かった」と言われたのを、わたしは聞き逃さなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
591
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる