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第四部

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「なんで――」

「冒険者ウィルフの昇級祝いとして、彼が恩赦を望んだので、特例として釈放されることとなりました」

 酷くうろたえるジェルバイドさんとは裏腹に、ルーネちゃんは淡々と話を進めていく。

「しかし、条件として、この街に二度と立ち入らないこと、同時に冒険者としての資格の永久剥奪。この二点が条件となります。よろしいですね?」

 よろしいですね、とルーネちゃんはあくまで問うような口調をしているが、雰囲気的に断ることが出来ない状況だ。
 ジェルバイドさんもその空気を察したのか、それとも釈放されるという事実が受け止められないのか、呆然と黙ったままだ。

「貴方の故郷であるシャルベンには冒険者ウィルフとマレーゼちゃ――んんっ、マレーゼに送って貰ってください」

 途中まで淀みなくギルド長モードで話していたルーネちゃんだったが、わたしの名前を呼んで気が抜けたのか、咳ばらいを一つした。

「ウィルフ――?」

 そこで彼はようやくわたしたちに気が付いたようで、こちらを見る。立ち位置からして、扉を開けた正面にわたしたちはたっていないので、気が付かなくても無理はない。

「君は……」

 ジェルバイドさんの目が、ウィルフさんに釘付けになる。ぴくり、とウィルフさんの指先が動いた。
 じい、と見つめられて、ウィルフさんは動揺しているらしかった。

「……積もる話もあると思いますが、ここは本来、巡回の際以外に立ち入らない場所ですので。雑談はシャルベンでしてください」

「――分かってる」

 ウィルフさんはきゅっと強く手を握り絞めたかと思うと、深く息を吐いた。
 そして、ジェルバイドさんに向けて、言葉を投げかけた。

「特級冒険者のウィルフだ。あんたをジェルバイドまで送り届ける依頼を受けている。短い間だが、よろしく頼む」

 ウィルフさんの言葉に、ジェルバイドさんはしばらく呆然としていた。そして――つ、と、彼の頬に涙が伝う。

「オレはシャルベンに――帰れるのか。アンジュに、会える、のか」

 ようやく状況を飲み込み始めたジェルバイドさんは、ぼたぼたと涙をこぼし、ひきつるような呼吸と共に、嗚咽をこぼした。

「ああ、帰れる。俺が、責任もって、あんたをアンジュのところまで連れていく」

 きぃ、と、廊下と独房を繋げる扉だけでなく、鉄格子も開かれる。
 自由になった、その先に、よたよたとした足取りで、ジェルバイドさんは一歩、外に出た。

「――帽子、被っておいた方がいいですよ。服と一緒に支給しましたよね」

 ルーネちゃんがジェルバイドさんにそう声をかける。彼は入口付近の床に置いていた帽子を広い、被る。
 いい大人の男がこれだけぼろぼろ泣いていたら注目されないわけがないが――まあ、こればかりは仕方がないだろう。
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