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第四部

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「――さて、落ち着きましたか」

「べつ――落ち着いた」

 何か言いかけていたウィルフさんだったが、しれっとした表情で言葉を濁した。何を言いかけたんだ……。
 気になるけれど、落ち着いたのならよかった。表情からしても、嘘じゃないだろう。

「――っ、おい、お前、鼻……」

「鼻?」

 何かついているかな、とこすってみると、手の甲に何かが伸びる感触がした。慌てて見ると、べっとりと血がついている。うわ、鼻血だ。

「頭、打ったのか」

「いやあ、多分、魔力不足ですかねえ」

 魔力がゼロになると意識を失うが、その前にあちこち体に不調がでる。めまいだったり、吐き気だったり、頭痛だったり、それこそ鼻血だったり。
 どの症状が出やすいかは、個人差がある。わたしは結構どの症状もまんべんなく、という感じだが、今回は鼻血だったらしい。

 まあ鼻血がでてちょっとくらくらするくらいならまだマシか。しろまるを呼び出す為に、あれこれ頑張ったときみたいにぶっ倒れてしまうよりは全然いい。
 試しに頭を触ってみると、案の定猫の耳は消えていて、側頭部に人間の耳が戻ってきていた。

「多分、そろそろ動物避けの魔法も消えると思うんで、あの魔物の対策を――」

「ちょっとまて、『ドウブツ』避け? 『魔物』避けじゃないのか?」

 動物、のイントネーションが若干おかしいウィルフさんに、わたしはあの魔法の細かい説明をする。
 魔物避けではなく動物避けで、魔物が弾かれるのは、動物から派生した生き物だからで、獣人も同じく動物から派生した生き物だから同じように弾かれる、と。
 あの魔法の障壁を難なく通り抜けることが出来るのは人間だけ、と。

 そう説明すると、ウィルフさんはそれはそれは深い溜息を吐いて固まった。
 そして少し間をおいて、「俺の早とちりだった、ってことか……?」と消えるような声で問うてきた。

「まあ……そうですね」

 肯定するのはなんだか可愛そうだったが、ここで嘘をつくわけにもいかない。
 ウィルフさんは再び固まった後、「あいつ、絶対殺す……」と、今度は地を這うような声で言った。あいつ、と言っているし、わたしじゃなくてあのローヴォルだと信じたい。

「つーか、とっととどけ」

 ギロッとウィルフさんに睨まれる。すっかり忘れていたが、未だにウィルフさんの上に乗ったままだった。
 わたしは謝って上からどく。もう流石にわたしのことを今すぐ殺そうだとか、そういうことを考えていると心配しなくていいだろう。

 いつの間にか身体強化〈ストフォール〉すら切れていた体ではこれ以上抵抗も出来ないし。
 わたしがどくと、ウィルフさんは起き上がって、どこからか短剣を取り出した。隠し持っていたんだろうけど……えっ、今どこから出した? あまりにも一瞬過ぎて見逃した。多分、腰の辺り……だったと思うけど。
 とはいえ、武器はちゃんとあるようで安心した。

「さて、あいつを倒してさっさと戻るぞ」

「はい」

 わたしたちは外にいるであろうローヴォルを倒すべく、作戦を練るのだった。
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