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第四部

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 これだけの保護魔法がかかっているのだ。侵入者を防ぐだけの魔法がかかっているに決まっている、と思いながらも、わたしは家の扉のドアノブに手をかけた。
 しかし、わたしの予想に反して、扉はあっさりと開く。魔法どころか、物理的な嗅ぎすらかかっていない。

 これ幸い、とわたしは室内に入って、扉をしめ、扉の周辺に、動物避けの魔法をかける。
 流石に、家全体にかけられるほどの余裕はない。フィジャの腕を治したときも、随分と魔力を持っていかれてしまった。少しでも魔力を温存したいので、全体にかけるなんて無駄なことはできない。
 保護魔法がかかっているし、狂暴な魔物が済む場所で、これだけ綺麗に残っているのだから、と、家自体の頑丈さに望みをかけて。

 室内を観察している余裕はない。しかし、空気はあまり埃っぽくない。今は誰もいないが、やはり誰かしら出入りしているのだろう。
 わたしは扉から少し離れた棚の陰に、床ではあるが、ウィルフさんを横たわらせた。

 ちら、と扉の方を伺えば、扉の横にある窓から、魔物が頭を振ったことにより、目から剣が抜け落ちたところが見えた。こっちからは様子を見ることができるが、向こうからは見えない場所なので、多少は見つかってしまうまで時間をかせぐことができるだろうが、急がないと。

 ウィルフさんは息を荒くしているが、目を薄く開け、視線が動いている。意識はあるようだ。
 わたしは腰に付けたポーチからしろまるの宿る紙を取り出し、少し乱暴ではあるが、一気に魔力を流し込む。

「びっくりしたの! もう少し優しくしてほしいの!」

 召喚される、というよりは、紙から押し出されるように姿を表した。

「ごめんね、でも、今、それどころじゃないの! しろまる、力を貸して、ウィルフさんを治して」

「ぎゃーっ! 血まみれなの、血一杯なの!」

 ぴょんと跳ね上がったしろまるは、いくつもある小さい丸い足をバタバタさせ、驚いていた。
 そんなしろまるに手を伸ばせば、わたしの腕を伝い、両肩に乗ってきてくれる。ただ、焦っているからか、前回より若干のぼるスピードが遅い。

「早く治すの、血がたくさんなのは駄目なの!」

「分かってる。まずは……肩からね」

 噛みつかれた場所は肩と腕。よほど鋭い牙だったのか、いくつか、防具すら貫通している穴が並んでいる。しかも、口が大きいのか、普通の肌の部分にも、穴がいくつもあった。
 肩の方は、肉がえぐれてしまっていて、噛みつかれた牙の跡が並ぶ腕より悲惨だ。先にそっちを治そう。

「――治癒〈ソワンクラル〉」

 そう魔法を発動させると、ずるっと、勢いよくしろまるに魔力を奪われていく。淡く白い光がウィルフさんの肩を包んだ。
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