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第四部
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辺りになんの魔物もいないことを確認して、わたしは好奇心のままにその一軒家に近付いた。勿論、ウィルフさんの許可は取って。
しかし、近付くにつれ、わたしは違和感と、嫌な予感に見舞われていた。
建築様式としては、一般的な一軒家。シーバイズ時代にはあまり見なかった、二階建てで高さはあるものの、全体的にこぢんまりした家だ。
問題は、そこじゃない。
異常なまでに、綺麗に残っているのだ。
ディンベル邸は千年という時を経て、しかも世界が滅ぶような大災害があったという中で生き残ったにしては綺麗だったが、床は抜けるし、窓はほとんどガラスが割れ、上手く調査しないと簡単に崩れそうなほどではあった。
でも、この一軒家は、今すぐにでも住めそうなほど、綺麗だった。言い換えれば、全然、現役に見えるのである。
「……本当にこれ、最近建てられたやつじゃないんですよね?」
わたしはウィルフさんに確認を取る。彼も彼で、綺麗さに異常を感じ取っているらしい。不思議そうにしていたが、「少なくとも冒険者ギルドが建てたものじゃねえな」と言われてしまった。
冒険者ギルドが、城壁の外に建造物を建てることはあるらしい。冒険者が使うためのものだったり、調査に赴くための道具を保管するものだったり、用途は様々だが、少なくとも魔物の出現が少ないとされ、かつ、出現するにしても弱い魔物しか出ない場所にしか建てないらしい。
よって、こんな場所に建てるのはありえないのだとか。
家の前に立ち、わたしはその一軒家を少し観察する。
――魔法だ。
わたしの勘がそう告げていた。勘、と言っても、当てずっぽうじゃない。なんとなく分かるからあくまで『勘』と称しているだけである。
多分、保存系の魔法を使っている。
だからこそ、ここまで綺麗に残っているのだろうが――問題は、誰がこの魔法を使っているか、である。
保存系の魔法は、大抵、魔法の発動をやめても効果が残るタイプの魔法に分類される。しかし、そのタイプの魔法でも、魔法を使った人間が死ねば流石に効果は消えることがほとんどだ。
極まれに、死後も長い間魔法の効果を維持できる才能を持つ魔法使いがいることは事実だが。
でも、それにしても、千年である。
わたしは魔法の発動をやめてしまっても効果が残るタイプの魔法自体が苦手なので、死後も魔法の効果を維持し続けることがどれだけ大変なことなのか、本当に理解はしていない。すごく大変なんだろうな、という、曖昧な予測しかたてられない。
それでも、千年は長すぎるだろう。
そんなことが出来るのは――。
わたしの頭には、一人の人間の顔が思い浮かんでいたが、流石にそれはないか、と頭を振って、その考えを消した。師匠がいくら有能で優秀で天才で、と、考えうる限りの凄い言葉を総なめするような性質の人間でも、千年は無理だろう。
わたし以外にも、魔法が使える人間が残っている、ということを考える方がまだ現実的である。
実際、イエリオは希望〈キリグラ〉の魔法を使えていたわけだし。技術として、魔法陣や方法が伝わっていないだけで、仮にそれが残っていたのなら、再現出来る可能性は十分にある。
「……これ、中に入ってもいいと――」
思いますかね? と最後まで言い切ることは出来なかった。
あの視線だ。
ウィルフさんが寝てから、わたしをたびたび見張りに来ていた、あの視線の持ち主が、きっとすぐ傍にいる。
しかし、近付くにつれ、わたしは違和感と、嫌な予感に見舞われていた。
建築様式としては、一般的な一軒家。シーバイズ時代にはあまり見なかった、二階建てで高さはあるものの、全体的にこぢんまりした家だ。
問題は、そこじゃない。
異常なまでに、綺麗に残っているのだ。
ディンベル邸は千年という時を経て、しかも世界が滅ぶような大災害があったという中で生き残ったにしては綺麗だったが、床は抜けるし、窓はほとんどガラスが割れ、上手く調査しないと簡単に崩れそうなほどではあった。
でも、この一軒家は、今すぐにでも住めそうなほど、綺麗だった。言い換えれば、全然、現役に見えるのである。
「……本当にこれ、最近建てられたやつじゃないんですよね?」
わたしはウィルフさんに確認を取る。彼も彼で、綺麗さに異常を感じ取っているらしい。不思議そうにしていたが、「少なくとも冒険者ギルドが建てたものじゃねえな」と言われてしまった。
冒険者ギルドが、城壁の外に建造物を建てることはあるらしい。冒険者が使うためのものだったり、調査に赴くための道具を保管するものだったり、用途は様々だが、少なくとも魔物の出現が少ないとされ、かつ、出現するにしても弱い魔物しか出ない場所にしか建てないらしい。
よって、こんな場所に建てるのはありえないのだとか。
家の前に立ち、わたしはその一軒家を少し観察する。
――魔法だ。
わたしの勘がそう告げていた。勘、と言っても、当てずっぽうじゃない。なんとなく分かるからあくまで『勘』と称しているだけである。
多分、保存系の魔法を使っている。
だからこそ、ここまで綺麗に残っているのだろうが――問題は、誰がこの魔法を使っているか、である。
保存系の魔法は、大抵、魔法の発動をやめても効果が残るタイプの魔法に分類される。しかし、そのタイプの魔法でも、魔法を使った人間が死ねば流石に効果は消えることがほとんどだ。
極まれに、死後も長い間魔法の効果を維持できる才能を持つ魔法使いがいることは事実だが。
でも、それにしても、千年である。
わたしは魔法の発動をやめてしまっても効果が残るタイプの魔法自体が苦手なので、死後も魔法の効果を維持し続けることがどれだけ大変なことなのか、本当に理解はしていない。すごく大変なんだろうな、という、曖昧な予測しかたてられない。
それでも、千年は長すぎるだろう。
そんなことが出来るのは――。
わたしの頭には、一人の人間の顔が思い浮かんでいたが、流石にそれはないか、と頭を振って、その考えを消した。師匠がいくら有能で優秀で天才で、と、考えうる限りの凄い言葉を総なめするような性質の人間でも、千年は無理だろう。
わたし以外にも、魔法が使える人間が残っている、ということを考える方がまだ現実的である。
実際、イエリオは希望〈キリグラ〉の魔法を使えていたわけだし。技術として、魔法陣や方法が伝わっていないだけで、仮にそれが残っていたのなら、再現出来る可能性は十分にある。
「……これ、中に入ってもいいと――」
思いますかね? と最後まで言い切ることは出来なかった。
あの視線だ。
ウィルフさんが寝てから、わたしをたびたび見張りに来ていた、あの視線の持ち主が、きっとすぐ傍にいる。
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