228 / 452
第四部
225
しおりを挟む
足取りもおかしくて、さっきまでなんの迷いもなく歩いていたのに、たびたび方向を間違えているようだった。数歩も歩かない内に間違えていることに気が付いて、軌道修正をするのは流石としか言いようがないが。
何がそんなにまずかったんだろう。ふらふらと歩くウィルフさんの後ろ姿を見ながら、わたしはつい、さっきの死体のことを思い出してしまう。死体の様子を、というか、ウィルフさんの様子を。
異常、と言ってもいいほどの狼狽ぶり。
切り替えが早くて、危ないことでもしれっとしてて、冷静で。そんな普段のウィルフさんは、どこにもいなかった。
森に入ってすぐだったので、そこまで歩かないでも拠点に戻る。
「え、なんですか、これ」
拠点に戻ると、わたしは思わず声を上げてしまった。荷物が荒らされている。
わたしは思わず拠点に駆け寄った。
「……?」
ただ、不思議なことに、荒らされ方が不自然だ。食料なんかは荒らされてはいるが、そんなに減った様子がない。散乱しているものをかき集めれば、ここに置いた分の食料と、ほぼ同じような量になりそうだ。ざっくりとした目分量ではあるが。
そして、わたしの荷物は少しだけしか荒らされてない。わたしの分のテントは無事だし、荷物も、少し修復して整理すれば問題なく使えそうだ。
対して、ウィルフさんの荷物は凄いことになっている。テントも壊されているし、荷物もぐちゃぐちゃ。ヤバそうなのは、剣の手入れの道具が散乱して、おそらく壊れていること。
剣が折れたから魔法で直す、というのはまあ、最悪出来ない訳じゃないけど、最善の状態に手入れする魔法は、今のところ心当たりがない。わたしが剣の手入れの知識がなくて、勝手が分からないだけで、応用で使えるものはあるかもしれないけど。
一番の戦闘力を持つウィルフさんの命を預ける剣が手入れ出来ない、というのはなかなかに厳しい状況だ。
――キュウ。
どうしよう、と考えていたわたしの思考は、弱弱しい鳴き声によって現実に引き戻される。
「――ペロディア!」
鳴き声の主は、わたしが檻に入れたペロディアだった。
わたしの予想通り、動物から進化したタイプの魔物から保護するのは、動物避けの魔法でも出来るようで、檻自体は無事だ。勿論、中のペロディアも。
しかし、ここを襲った魔物は中のペロディアを外に引きずりだそうとしたのか、檻の周辺の地面に、凄まじい量の爪後が残っていた。
爪痕の大きさを見るに、相当大きい魔物がここに来たんだろう。わたしたちが森へ入って戻ってくるまで、体感時間ではあるものの、一時間かかっていないくらいの、短時間に。
ペロディアはすっかりおびえ切って、檻の中心で縮こまっていた。元より小さい体を、さらに小さくして、震えて。
何がそんなにまずかったんだろう。ふらふらと歩くウィルフさんの後ろ姿を見ながら、わたしはつい、さっきの死体のことを思い出してしまう。死体の様子を、というか、ウィルフさんの様子を。
異常、と言ってもいいほどの狼狽ぶり。
切り替えが早くて、危ないことでもしれっとしてて、冷静で。そんな普段のウィルフさんは、どこにもいなかった。
森に入ってすぐだったので、そこまで歩かないでも拠点に戻る。
「え、なんですか、これ」
拠点に戻ると、わたしは思わず声を上げてしまった。荷物が荒らされている。
わたしは思わず拠点に駆け寄った。
「……?」
ただ、不思議なことに、荒らされ方が不自然だ。食料なんかは荒らされてはいるが、そんなに減った様子がない。散乱しているものをかき集めれば、ここに置いた分の食料と、ほぼ同じような量になりそうだ。ざっくりとした目分量ではあるが。
そして、わたしの荷物は少しだけしか荒らされてない。わたしの分のテントは無事だし、荷物も、少し修復して整理すれば問題なく使えそうだ。
対して、ウィルフさんの荷物は凄いことになっている。テントも壊されているし、荷物もぐちゃぐちゃ。ヤバそうなのは、剣の手入れの道具が散乱して、おそらく壊れていること。
剣が折れたから魔法で直す、というのはまあ、最悪出来ない訳じゃないけど、最善の状態に手入れする魔法は、今のところ心当たりがない。わたしが剣の手入れの知識がなくて、勝手が分からないだけで、応用で使えるものはあるかもしれないけど。
一番の戦闘力を持つウィルフさんの命を預ける剣が手入れ出来ない、というのはなかなかに厳しい状況だ。
――キュウ。
どうしよう、と考えていたわたしの思考は、弱弱しい鳴き声によって現実に引き戻される。
「――ペロディア!」
鳴き声の主は、わたしが檻に入れたペロディアだった。
わたしの予想通り、動物から進化したタイプの魔物から保護するのは、動物避けの魔法でも出来るようで、檻自体は無事だ。勿論、中のペロディアも。
しかし、ここを襲った魔物は中のペロディアを外に引きずりだそうとしたのか、檻の周辺の地面に、凄まじい量の爪後が残っていた。
爪痕の大きさを見るに、相当大きい魔物がここに来たんだろう。わたしたちが森へ入って戻ってくるまで、体感時間ではあるものの、一時間かかっていないくらいの、短時間に。
ペロディアはすっかりおびえ切って、檻の中心で縮こまっていた。元より小さい体を、さらに小さくして、震えて。
1
お気に入りに追加
612
あなたにおすすめの小説
転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです
狼蝶
恋愛
転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?
学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
男女比が偏っている異世界に転移して逆ハーレムを築いた、その後の話
やなぎ怜
恋愛
花嫁探しのために異世界から集団で拉致されてきた少女たちのひとりであるユーリ。それがハルの妻である。色々あって学生結婚し、ハルより年上のユーリはすでに学園を卒業している。この世界は著しく男女比が偏っているから、ユーリには他にも夫がいる。ならば負けないようにストレートに好意を示すべきだが、スラム育ちで口が悪いハルは素直な感情表現を苦手としており、そのことをもどかしく思っていた。そんな中でも、妊娠適正年齢の始まりとして定められている二〇歳の誕生日――有り体に言ってしまえば「子作り解禁日」をユーリが迎える日は近づく。それとは別に、ユーリたち拉致被害者が元の世界に帰れるかもしれないという噂も立ち……。
順風満帆に見えた一家に、ささやかな波風が立つ二日間のお話。
※作品の性質上、露骨に性的な話題が出てきます。
美醜逆転の異世界で私は恋をする
抹茶入りココア
恋愛
気が付いたら私は森の中にいた。その森の中で頭に犬っぽい耳がある美青年と出会う。
私は美醜逆転していて女性の数が少ないという異世界に来てしまったみたいだ。
そこで出会う人達に大事にされながらその世界で私は恋をする。
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
男女比が狂った世界で史上初の女性Vtuberになっててっぺんとります‼︎
いつき
恋愛
過去にいじめにあった経験を持つ少女。藍葉蜜(あいば みつ)は、ある日目が覚めると世界が男女比が狂った女性至上主義の世界に変わり果てていた!
この世界でなら虐められないかもしれないと思い外に出ようとする蜜だが、長年の引きこもりのせいでまともに人と話せない状態に⁉︎
かろうじて顔を合わせなければ話せるため、特訓として蜜はVtuberとして活動を始めるが、この世界において女性がVtuberをするのは史上初の事で__________。
二度目の勇者の美醜逆転世界ハーレムルート
猫丸
恋愛
全人類の悲願である魔王討伐を果たした地球の勇者。
彼を待っていたのは富でも名誉でもなく、ただ使い捨てられたという現実と別の次元への強制転移だった。
地球でもなく、勇者として召喚された世界でもない世界。
そこは美醜の価値観が逆転した歪な世界だった。
そうして少年と少女は出会い―――物語は始まる。
他のサイトでも投稿しているものに手を加えたものになります。
美醜逆転の世界に間違って召喚されてしまいました!
エトカ
恋愛
続きを書くことを断念した供養ネタ作品です。
間違えて召喚されてしまった倉見舞は、美醜逆転の世界で最強の醜男(イケメン)を救うことができるのか……。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる