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第四部

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 足取りもおかしくて、さっきまでなんの迷いもなく歩いていたのに、たびたび方向を間違えているようだった。数歩も歩かない内に間違えていることに気が付いて、軌道修正をするのは流石としか言いようがないが。
 何がそんなにまずかったんだろう。ふらふらと歩くウィルフさんの後ろ姿を見ながら、わたしはつい、さっきの死体のことを思い出してしまう。死体の様子を、というか、ウィルフさんの様子を。

 異常、と言ってもいいほどの狼狽ぶり。
 切り替えが早くて、危ないことでもしれっとしてて、冷静で。そんな普段のウィルフさんは、どこにもいなかった。
 森に入ってすぐだったので、そこまで歩かないでも拠点に戻る。

「え、なんですか、これ」

 拠点に戻ると、わたしは思わず声を上げてしまった。荷物が荒らされている。
 わたしは思わず拠点に駆け寄った。

「……?」

 ただ、不思議なことに、荒らされ方が不自然だ。食料なんかは荒らされてはいるが、そんなに減った様子がない。散乱しているものをかき集めれば、ここに置いた分の食料と、ほぼ同じような量になりそうだ。ざっくりとした目分量ではあるが。

 そして、わたしの荷物は少しだけしか荒らされてない。わたしの分のテントは無事だし、荷物も、少し修復して整理すれば問題なく使えそうだ。

 対して、ウィルフさんの荷物は凄いことになっている。テントも壊されているし、荷物もぐちゃぐちゃ。ヤバそうなのは、剣の手入れの道具が散乱して、おそらく壊れていること。
 剣が折れたから魔法で直す、というのはまあ、最悪出来ない訳じゃないけど、最善の状態に手入れする魔法は、今のところ心当たりがない。わたしが剣の手入れの知識がなくて、勝手が分からないだけで、応用で使えるものはあるかもしれないけど。

 一番の戦闘力を持つウィルフさんの命を預ける剣が手入れ出来ない、というのはなかなかに厳しい状況だ。

 ――キュウ。

 どうしよう、と考えていたわたしの思考は、弱弱しい鳴き声によって現実に引き戻される。

「――ペロディア!」

 鳴き声の主は、わたしが檻に入れたペロディアだった。
 わたしの予想通り、動物から進化したタイプの魔物から保護するのは、動物避けの魔法でも出来るようで、檻自体は無事だ。勿論、中のペロディアも。

 しかし、ここを襲った魔物は中のペロディアを外に引きずりだそうとしたのか、檻の周辺の地面に、凄まじい量の爪後が残っていた。
 爪痕の大きさを見るに、相当大きい魔物がここに来たんだろう。わたしたちが森へ入って戻ってくるまで、体感時間ではあるものの、一時間かかっていないくらいの、短時間に。

 ペロディアはすっかりおびえ切って、檻の中心で縮こまっていた。元より小さい体を、さらに小さくして、震えて。
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