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第四部

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 わたしは立ち上がって砂を払いながら「そんなに強い相手なんですか?」と聞く。

「あれは多分群れの長だな」

「長、ですか?」

 強い個体ほど、角が立派なイメージがあるのだが、あのルイシヴォカは随分小さい様に見えた。体は確かに大きかったけど。
 よっぽど納得いかないような表情をしていたのか、ウィルフさんは珍しく、詳細を教えてくれた。

「ルイシヴォカの群れの長はよく戦うから角が研磨されて小さくなっていくんだよ。代わりに先が鋭くなるから見た目より殺傷力は上がる」

「ひえ」

 そこまで見ていなかったが、鋭くなった角で突進されたらひとたまりもない。ハエ変わりがあるにも関わらず、角が戦いで研磨されて鋭くなるとか、それほどまでに戦う気性を持つということだ。

「普通は最初に群れの下っ端のオスが様子を見に来るもんだが、もしかしたらカラプラと揉めた後だったのかもな」

 運が悪かった、ってそういう……。いや、それウィルフさんのせいでは? おとなしくこっそり探していればこんなことにはならなかったのでは……。
 でも、こうした調査はウィルフさんの方が経験はあるし、わたしは一切勝手がわからないので、好きにしていい、と事前にいってあるから今更文句は言いにくい。
 とはいえ、自由に行動するとしても、一言欲しい。

「仮にカラプラという魔物と揉めたとしたら、この縄張りも下手なことしたらヤバいんじゃないですか?」

 カラプラは山羊のような魔物だった、と記憶している。角があるもの同士、戦いは激しそうだ。元々、双方草食の動物だし、餌も被りそう。

「だろうな。流石に慎重に……」

 会話しながら歩き出してはいたのだが、ウィルフさんが足を止めた。ルイシヴォカの縄張りを抜けて、さほど歩いていない。
 本当にひと騒動あって、怪我したカラプラでもいるのかと思ったけれど――わたしの予想を遥かに上回る光景が、そこには会った。

 ウィルフさんが足を止めた、その先。
 崖、というか段差になっていて、気が付かずに滑り落ちていたら怪我をしていたかもしれないが、気を付けていれば問題ないくらいの高さで。多分、一メートルもない程度の。

 その段差の下に、何かの死体が横たわっていた。死体の下に、血だまりが、広範囲に広がっている。
 むせるような血の匂いに、ぐっと喉がしまる。

 体の造りからして、四足歩行の獣であることは分かるが、ところどころ食われたような後があって、半分以上体がなく、元が何か全く分からない。ましてや、わたしは魔物の知識がないので、余計に。

「これなんの死体ですか……?」

 全くグロテスクな物が駄目、というわけではないが、流石に気持ち悪くなってきて、わたしは死体から目をそらす。

 ちら、とウィルフさんを見れば、予想以上に動揺しているように見えた。おそらく、わたし以上に、この死体を見て驚いているようだ。
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