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第四部

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 調査一日目。わたしたちは拠点にペロディアを置いて、東の森の中へと入っていった。
 木の密度がすごく、随分とうっそうとした森だ。苔がいたるところに生えているからか、薄暗いだけでなく、すごくじめっとしているように感じる。
 昨晩は随分と幻想的な森に見えたのに、木々や苔が光らない昼間は、だいぶ不気味な森に見えた。

 最初の方の調査は、シャルベンに残っている記録を元に、魔物の存在の調査である。不自然に減ってしまっているペロディアを初めとして、きっちり縄張りが決まっている森の中の魔物たちが、そこにいるかの確認だ。

 森の中の縄張りは、ほとんど隙間なく決まっているようで、避けて通るのは非常に困難らしく、魔物に見つからないよう、隠れながら移動するしかない。確かに、こんな移動の仕方で、周りの状況が読み取れない上に、気が向くままにはしゃぐ、あの子供のペロディアを連れてはいけない。

 わたしの前を行くウィルフさんの脚どりに迷いはない。以前にも来たことがあるのか、それとも記憶力が良くて資料が頭に入っているのか、ずかずかと歩いていく。
 余りにも余裕そうなので、わたしがいなくても大丈夫なんじゃないか……と思わないでもないが、今はまだ魔物と遭遇していないだけ。もしかしたら、ウィルフさんでも敵わないような敵が出るのかも。……あんまり想像はつかないけど。

 しばらく歩くと、最初の確認地点に到着……したと思われる。わたしも資料を見せては貰ったけど、森なんてどこも一緒に見えるからよくわからないのだ。
 ただ、あれだけ迷いなく歩いていたウィルフさんが、急に足を止めたので。特別、周りに何かいるような気配もないし。

 最初の確認地点は……確か、ルイシヴォカ、という魔物の縄張りだったか。話や姿絵を見る限り、鹿が一番近い様に思う魔物だ。
 東の森の入口付近に縄張りがあり、東の森に入ると、最初に遭遇することが多い魔物だという。

 オスに生える角が結構高値で売れるらしいので、取れそうだったら取っておけ、と言われた。調査が第一だが、魔物の素材が取れそうなら取っておきたいそうだ。まあ、こんなところまで来たのだ、お金になる素材なら無理のない範囲で持ち帰りたくもなるよね。ちなみにルイシヴォカの角は、若い頃は毎年、歳を取っていると数年に一度、生え変わるらしい。

 正面に立つと、そのまま突進され、最悪角が刺さって死ぬから正面にだけは立つなよ、と言われている。ある程度防具があるから、致命傷にはならないと思うが、万が一、ということもあるしね。全身を鎧で覆っているわけではなく、致命傷になりそうな場所だけを覆っているので。

 ちなみに、今回は万全を期してしろまるの紙は複数用意済だ。
 スパネットが生き残れるような場所じゃない、と言っていたし、スパネットがいないことは分かっているが、一枚だけ、というのも不安だし。ポケットの中や腰に付けたポーチの中、果てはブーツの中など、複数仕込んでいるので、全部なくなることはないだろう。

 というか、全て使えない状況に追い込まれたら、そもそも落ち着いてしろまるを召喚することなんて出来ない。
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