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第四部

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 ――そして、その夜。
 東の森は、本当に凄かった。中に入る訳じゃなくて、外から様子を伺うだけだが、うすぼんやりと森全体が光っている。

 まるでゲームに出てくるような凄い光景に、すっかり目が冴えた。夕食を食べている間に陽が傾き初め、最初は森が発光する、なんて想像もつかないくらい普通の森だったのに、すっかり陽が落ち夜になると、森の方が光り出したのだ。

 今は森の入口が見えるけれど、実際にはちょっと距離のある位置に拠点を作ったので、うすぼんやり、という程度だが、森の中に入れば月明りがなくても困らないくらいには、きっと明るいだろう。

「すごい! 綺麗ですね! 観光地に出来ればいいのに」

 前世でイルミネーションのデートスポットがあるくらいだ。人工的な光より弱く、より幻想的なので、もっと人気が出るかもしれない。
 わたしがはしゃぎながら言うと、ウィルフさんは呆れたような溜息をはいた。

「東の森を見て、そう言うのはお前くらいだ。本当にお前は趣味が悪いな」

 わたしは先入観がないから綺麗で幻想的に見えるが、他の人にとっては、強くて狂暴な魔物がいる危険な場所、というイメージが強くて、幻想的ではなく不気味に見えるのかもしれない。

「別に趣味は悪くないです~」

 言外に、男の趣味も悪い、と言われた気がするので否定しておく。声音がそんな感じだった。趣味が悪いんじゃなくて、価値観が違うだけなのだ。

 ウィルフさんも、わたしが言いたいことが、みなまで言わなくても分かったようで、「そこを否定されても嬉しくねえよ」と、ふ、と一瞬、ウィルフさんが呆れたように笑った。――笑った。

 お酒も入っていないのに、ウィルフさんが笑った!

 フィジャの家で飲み会をしていたときは、酔っ払って気分良さそうに笑っているところを見たが、素面の時に彼が笑うのを見たのは初めてじゃないだろうか。

 気を許してくれたように思えて、嬉しくて、「ふへ」と変に笑ってしまえば、わたしの異変に気が付いたウィルフさんが、じと、と目を細めた。
 笑ったのが無意識で、わたしがそれに喜んでいることに気が付いていないようで。

 無意識に笑ってくれるくらいになった、という嬉しさ半面、その、可哀そうな人を見る目はやめてほしいと思う。

「ま、何が好きだろうと興味はねえけど、勝手に中へ入るんじゃねえぞ」

「それは勿論」

 淡く発光する木々と苔がある森、なんて神秘的な場所に興味引かれるが、そもそも全く土地勘がない上に森だ。一瞬で迷子になって、二度と出てこられない自信がある。
 明日は昼間の調査だが、昼間でめぼしい情報が得られなければ夜に入ることも考える、とウィルフさんからは聞いている。
 一人で入るのは迷子が怖すぎるので、それを待つしかない。まあ、情報が早く集まることに越したことはないけれど。
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