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第四部

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 辺りを警戒して見回りにいったウィルフさんの代わりに、わたしが彼の分のテントも設置しておく。彼の体に比例するようにわたしよりも大きいし、以前から使っているようで、だいぶくたびれていた。

「よい、しょっと」

 くたびれている分、わたしのテントより扱いやすいのだが、それでも大きさが相まって、立てるときには少し苦労する。

「こんなもんかな」

 設営を終え、軽く伸びをしていると、ウィルフさんが戻ってきた。

「……どうしたんですか、それ」

 ものすごく渋い顔をしているウィルフさんの足元には、わたしの両手にも収まってしまいそうなほど小さい、ころんと丸い、おそらく子供のイヌがいた。
 「ワン!」というよりは「アン!」と表現したほうが正しいような高い声で時折鳴き、ちぎれんばかりにピコピコとしっぽを振って、ウィルフさんの足元をうろちょろしている。
 その表情はとても明るくて、目がきらきらと輝いている様だった。

 ――完全に懐かれている。

 ウィルフさんが首根っこを掴んで持ち上げても、遊んでもらえると思っているのか、しっぽは左右に激しく揺れる。
 しかし、ウィルフさんがそんなことを考えているわけもなく。

「ちょ、ちょ、ちょっと! ちょっと待ってください!」

 思い切り放り投げる姿勢を見せたウィルフさんをわたしは慌てて止める。あの小ささだ、ウィルフさんが投げたら、地面に叩きつけられて死んでしまうのではと思うほど、儚く見える。

「ペロディアが弱いって言っても魔物だぞ。この程度の高さから投げたって死にはしねえよ」

「そうだとしても! もう少し穏便にならないんですか」

 庇護欲を激しく刺激してくる見た目をしているこのイヌ。じゃない、ペロディアにこの仕打ち。心と言うものがないのか、この人は。

「さっきから逃げるように仕向けてるんだが、ずっとついてくるんだよ。調査の邪魔だ」

「いやまあ、言いたいことも分かりますけど……」

 生まれて間もない個体なのか、警戒心より好奇心の方が強そうだし、なにより状況の把握を出来るほどの知能がなさそうだ。
 しかもさっきからちょいちょい鳴いているので、魔物から姿を隠しているときに飛び出て行って鳴く、みたいな光景が、簡単に想像できる。

 懐いて後をついてこられるのが困るって言うのは分かるし、半端な対応でどこかへ去って行ってくれるほどの相手じゃないっていうもの分かるけど。
 なんかこう、絵面的に……止めねば! となってしまう。これがペロディアの性質なんだろうか。保護してもらい、他種族に取り入って生き残る魔物。

 いや、そうだとしたらこれにあらがえるウィルフさんが凄いな。精神が鋼すぎる。既にわたしは触って可愛がって、餌をやりたいと思い始めてすらいる。

 えっ、こわ……。これが魔法でもなんでもなく、『愛らしさ』だけで成り立つのか……? ペロディアもフェルルスのように魔法が使えて、それで、魅了の魔法というか、思考に影響を出す魔法でも使ってるんじゃないのか?
 だとすると、蘇生魔法よりは難易度が高いんだけど……えっ、こわ……。
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