218 / 493
第四部
215
しおりを挟む
血が飛び散った、と言っても、ついさっき何か殺してきました、みたいな量の返り血を浴びているわけではない。でも、この薄暗さで、ハッキリ血だと分かるくらいには、彼の服や防具に血が付着していた。
「――逃げられた」
そう言いながら、彼はドカっと地面に座る。はあ、と溜息をつく姿は、疲れているというよりは面倒くさがっている様子が感じられた。
「に、逃げられたって……何に? というか、それ全部返り血ですよね? 怪我とかしてませんか?」
「この程度で怪我するわけねえだろ。……お前が変な視線を感じるっていうから、面倒なことになる前にその『視線の先』を探そうと思ったんだよ」
なんでも、寝たふりをして、視線を感じたら捕獲しに行こうと思ったそうだ。……意外と話、ちゃんと聞いてくれてたんだ。少し驚いた。このまま放置されると、本当に思っていたので。
「捕まえて何が目的か吐かせるつもりだったからな、手加減しすぎて逃げられた」
ぼそっと、「もう少し傷をつけても良かったか」なんて聞こえた気がしたけど、聞こえなかったことにしよう。血の量からして、致命傷でないにしろ、それなりの怪我を負わせたように思えるのだが。
「何が目的か吐かせるって……やっぱり人だったんですか?」
「あいつは――……いや、暗くてよく見えなかったからな。適当なことは言えねえが、まあ、獣人だったよ」
今夜は月が結構欠けている。月明りで人相を判別するには、少し心もとない。……とはいえ、心当たりのある顔だったんだろう。
いくらウィルフさんが「手加減しすぎた」と言っても、彼だってかなりの腕を持つ冒険者だ。そのウィルフさんから逃げられた、ということは、相手もそれなりに腕が立つんだろう。
それだけの実力者だったら、顔が知れ渡っていてもおかしくないのかもしれない。
――まあ、わたしには全て推測するしかできないのだが。
「……それより、この辺りにも魔物がいない方が気になるな。この辺には夜行性の魔物が何種類もいるはずなんだが、一体も遭遇しなかった。誰かさんも眠りこけるくらいには、気配もないしな」
「うぐっ、その点はすみませんでした……」
やっぱり寝てしまっていたことはバレていたらしい。まあそれはそうか。この状況で誤魔化し通す方が無理だ。
「……時期を考慮したとしても、ここまで魔物に遭遇しないのは異常だ」
確かに、長いと思っていた東の森への道のりもあと少し、という地点にいるのに、ここに来るまで、一日あたり一体か二体くらいしか魔物に会っていない。シャルベンを出て最初の一、二日は一体も見かけなかったくらいだ。ディンベル邸へ向かった二回のうち、どちらと比べても極端に少ない。
「本当に、東の森で何か起きてるのかもしれねえな」
そう言うウィルフさんの視線は、どこか遠くに向けられていた。きっと、その先に東の森があるのだろう。
「――逃げられた」
そう言いながら、彼はドカっと地面に座る。はあ、と溜息をつく姿は、疲れているというよりは面倒くさがっている様子が感じられた。
「に、逃げられたって……何に? というか、それ全部返り血ですよね? 怪我とかしてませんか?」
「この程度で怪我するわけねえだろ。……お前が変な視線を感じるっていうから、面倒なことになる前にその『視線の先』を探そうと思ったんだよ」
なんでも、寝たふりをして、視線を感じたら捕獲しに行こうと思ったそうだ。……意外と話、ちゃんと聞いてくれてたんだ。少し驚いた。このまま放置されると、本当に思っていたので。
「捕まえて何が目的か吐かせるつもりだったからな、手加減しすぎて逃げられた」
ぼそっと、「もう少し傷をつけても良かったか」なんて聞こえた気がしたけど、聞こえなかったことにしよう。血の量からして、致命傷でないにしろ、それなりの怪我を負わせたように思えるのだが。
「何が目的か吐かせるって……やっぱり人だったんですか?」
「あいつは――……いや、暗くてよく見えなかったからな。適当なことは言えねえが、まあ、獣人だったよ」
今夜は月が結構欠けている。月明りで人相を判別するには、少し心もとない。……とはいえ、心当たりのある顔だったんだろう。
いくらウィルフさんが「手加減しすぎた」と言っても、彼だってかなりの腕を持つ冒険者だ。そのウィルフさんから逃げられた、ということは、相手もそれなりに腕が立つんだろう。
それだけの実力者だったら、顔が知れ渡っていてもおかしくないのかもしれない。
――まあ、わたしには全て推測するしかできないのだが。
「……それより、この辺りにも魔物がいない方が気になるな。この辺には夜行性の魔物が何種類もいるはずなんだが、一体も遭遇しなかった。誰かさんも眠りこけるくらいには、気配もないしな」
「うぐっ、その点はすみませんでした……」
やっぱり寝てしまっていたことはバレていたらしい。まあそれはそうか。この状況で誤魔化し通す方が無理だ。
「……時期を考慮したとしても、ここまで魔物に遭遇しないのは異常だ」
確かに、長いと思っていた東の森への道のりもあと少し、という地点にいるのに、ここに来るまで、一日あたり一体か二体くらいしか魔物に会っていない。シャルベンを出て最初の一、二日は一体も見かけなかったくらいだ。ディンベル邸へ向かった二回のうち、どちらと比べても極端に少ない。
「本当に、東の森で何か起きてるのかもしれねえな」
そう言うウィルフさんの視線は、どこか遠くに向けられていた。きっと、その先に東の森があるのだろう。
24
あなたにおすすめの小説
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?
きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。
面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜
蝋梅
恋愛
仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。
短編ではありませんが短めです。
別視点あり
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
天使は女神を恋願う
紅子
恋愛
美醜が逆転した世界に召喚された私は、この不憫な傾国級の美青年を幸せにしてみせる!この世界でどれだけ醜いと言われていても、私にとっては麗しき天使様。手放してなるものか!
女神様の導きにより、心に深い傷を持つ男女が出会い、イチャイチャしながらお互いに心を暖めていく、という、どう頑張っても砂糖が量産されるお話し。
R15は、念のため。設定ゆるゆる、ご都合主義の自己満足な世界のため、合わない方は、読むのをお止めくださいm(__)m
20話完結済み
毎日00:00に更新予定
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる