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第四部

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「――……やらかした」

 ソファの上でそのそと起き上がり、ぼさぼさになった前髪をかきあげる。ぱさりとわたしにかけられていた毛布が床に落ちた。
 外はもうすっかり明るくて、時計はないものの昼過ぎであることがうかがえる。二重の意味でやらかした。
 寝起きの頭だと思い出せなかったが、徐々に覚醒してくると分かる。

 ここはウィルフさんの部屋だ。

 初めてこの時代に来てしまった際に訪れた部屋。あれ以来、久々だったが、何一つ変わらない。気持ち埃っぽさが増したくらいだろうか。

 二日酔いにはならなくて、寝起きで余り頭がはっきり働かないだけで、頭痛はない。むしろソファで寝たことによって起きた体の関節の痛みの方が気になるくらいだ。
 だからこそ――頭がガンガンしない分、昨日のことが簡単に思い出せる。

「――……やらかしたあぁあ……」

 最初から最後までしっかり覚えているわけではないが、いつの間にかお酒を飲んで酔っ払って、ウィルフさんにさみしいと泣きついた挙句キスをかましたところまでは覚えている。

 あのときのわたしの思考回路はどうかしていた。冷静になって今考えてみても、恋愛感情があるか定かではないけど嫌悪感をないことを示す行動としてキスを証明に使うってわけわからんわ。どうしてそうなった? あとステーキソースが美味しいじゃないんだよ。あんなことしたら二度とあの店行けないわ。

 言動を思い出せば思い出すほどツッコミどころが満載で恥ずかしくなる。いっそのこと忘れてしまいたかったが、わたしはどちらかといえば酒で記憶を失わないタイプらしい。多分、吐いたか定かではないあの辺りで気絶でもしたから記憶がないんだろう。それまでは結構鮮明に覚えているので。
 気持ち悪くなって吐いたかどうかは定かではないが……服が着せ替えられているあたり、駄目だったのかもしれない。

 いつも着ているワンピースじゃなくて、明らかにウィルフさんのものと思われる服を着せられていた。体格差がありすぎて、シャツ一枚でワンピースみたいになっているけれど。
 勝手に服を着せ替えられた、という羞恥より、思い切り迷惑をかけまくったことへの罪悪感しかない。

 今までほろ酔いくらいでお酒はやめていて、泥酔状態になるまで飲んだことはなくて、自分でも、酔いすぎるとああなるのだということを今回初めて知った。二度と深酒はしない。イナリさんのこと、なんにも言えないや。

「――……起きたのか」

「ヒエッ」

 気配もなく声をかけられて、比喩でなくわたしはぴょんと跳ね上がった。
 ぎぎ、とぎこちなく声がした方を向くと、ウィルフさんがそこにいた。
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