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第四部

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 わたしは入って左側、ウィルフさんは右側のソファにそれぞれ腰をかける。わたしたちが座り少しすると、サッとティーカップが差し出された。
 思わず差し出してきたその手の持ち主を見れば、さっきまでルーネちゃんの左隣にいたはずのトラの獣人さんだった。ルーネちゃんの方を見れば、左隣が欠けている。
 いつからお茶の準備を始めていたのか、そもそもいつ動いたのかすら分からなくて、思わず二度見してしまった。

「……何か?」

「いえ、なんでも……」

 うっすらと笑みを浮かべているが、いかにも作り物くさい。こわ……。下手に笑顔を作られるより、ルーネちゃんの隣でじっとこちらを警戒しているライオンの獣人さんの方がよっぽどいい。
 ウィルフさんは出されたお茶に手をつけないようだったけれど、わたしは気まずさからお茶を貰った。紅茶だった。

「それで、ええと、その。結論から話すと、マレーゼちゃんに、隣街に行ってほしくて……あっ、この街の冒険者として、隣街に」

「……冒険者として?」

 隣街に行くのはウィルフさんから聞いていたから別に不思議ではないけど……冒険者として、というのはどういうことだろうか。登録するの? 冒険者登録、なんていかにもファンタジー小説っぽいけど、でもわたしは別に冒険者として働くつもりはない。フィジャが難しい顔をしてたし、というか先にフィジャの店を手伝うって約束しちゃってるし。

 自分でも気が付かないうちに難しい顔をしてしまっていたのだろうか、ルーネちゃんが、あわあわと言葉を付け足す。

「ぼ、冒険者としてっていっても、あの、今回は見習い冒険者の身分として行ってもらうので、無理に冒険者登録しなくても大丈夫ですっ。わ、私としては登録してくれると嬉しいけど、でも、あの、その辺はマレーゼちゃんにまかせます」

 問答無用で冒険者にさせられるわけではないらしい。それはありがたいのだが、そうまでして何をわたしにさせたいんだろう。

「その、ええと……行って何してもらうかは、結論から話すと分かりにくいかな……あの、眼鏡。眼鏡……渡されました、よね?」

 眼鏡とは? と首を傾げると、ルーネちゃんの視線がウィルフさんの方へ向く。わたしもつられてそちらを見れば、ウィルフさんが「渡した」とだけ答えた。
 あ、もしかしてイエリオの眼鏡か? 渡しているところは直接見なかったけど、確かにウィルフさんが訪れてから、イエリオが眼鏡を持っていたから渡されたんだろう。

「その眼鏡がどうかしたの?」

「見つけたら教えてほしい、と、支部の人から聞いていた眼鏡、の、近くにグリエバルとフェルルスの死体があって――今、この街じゃあり得ないような、死因で。調べました」

 そこまで聞いて、ようやく気が付いた。今、わたしが恐れていた事態が起きているんじゃないかって。
 つまり、わたしが魔法を使えることを、フィジャ達や、ジグターさんら口止めをした人たち以外に――バレた、という状況なのでは、と。
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