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第三部

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 まあ、でも考えてみればそこまで不思議な話でもないか。
 魔法使いが動物から人を作った、という獣人の成り立ちが本当なら、魔力路の神経を作らないわけがない。だって、魔法使いにとって魔法は当たり前にあるもので、魔力路の神経は人体にあるべきものなのだから。

 そして魔物と獣人の元が同じ動物で、獣人に魔法が使えるなら魔物が使えてもおかしくはない。魔法は技術として方法が廃れただけで、イエリオが希望〈キリグラ〉を成功させているしね。
 とはいえ、魔法を習得するだけの知能が魔物にあるのか不思議なんだけど……。失敗して獣人になりそこなった、って、どこからが失敗で、どこからが成功なんだろう。

「一般的には、言語を理解して言葉を発し、会話が成立するか否かを基準としていますね」

 試しにイエリオに聞いてみると、そんな返事が返ってきた。

「言語を理解していると思われる魔物や、言葉を話す魔物もいるんですよ。前者は荷車引きの魔物として飼育されることが多いですね。ほら、ディンベル邸に行くときに使ったでしょう?」

 言われてみればそうだ。確かにあれもまた、魔物だった。完全に理解しているかは少し怪しいそうだが、ある程度は意思の疎通は可能らしい。

「後者はそこそこ知識はあるんでしょうが……。言語を理解しておらず、鳴き声のように似た言葉を喋る、と言えば分かりますか?」

「ある程度パターンで返すけれど、でも意味を理解してその言葉を発しているわけではない、ってこと?」

「そうです。強い魔物ほど流暢に真似をしますから、もし遭遇したら絶対に逃げてくださいね」

 と、言われても、今のところ城壁の外へ出る用事はない。まあ、そんな予定がなくとも、今回のようなことが二度と起きないとも限らないし、覚えておこう。
 しかし、言語の理解か……。魔法を習得するのに言語が必須か、と言えば微妙なところ。魔法陣に描かれるのはどちらかと言えば言葉ではなく記号であり、それがどう作用して魔法として発動するか理解出来ていれば、使えるには使えるのだ。
 食べられるものと食べられないものの選別や、危険な場所、安全な場所の判断、など、最低限の学習能力があれば魔法を使うのは無理、とはならない。

 でもやっぱりこれは理論上の話で、実際に魔法を使うだけの知能があれば、言語の一つくらい、簡単に理解できてしまうと思う。魔法を使えるのに言葉は全く分からない、というのはちょっと不自然だ。

 うーん、この謎が解明されたところでなにかあるかっていうと何にもないんだけど、気になるのは気になるよねえ。
 たとえ魔法が使えると確定したところで、獣人の人たちが魔法を使えるようになるというわけじゃないし、フェルルスがより討伐されやすくなるわけじゃない。イナリさんや他の人の反応を見ても、現状でそこまで倒すのが難しい魔物のようでもないし。

 でもやっぱり、好奇心に従うのなら、気になってしまう。
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