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第三部

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「……でも、そういう魔法って知識がいるんじゃないの」

 フィジャの腕のときの話をしているのだろう。確かにそういう話をした。治療魔法は、基本的に知識は必要な魔法で。まあ、前回は裏技でごり押したけど。
 でも、実は蘇生魔法に知識はいらなかったりするのだ。勿論、まともに生き返らせようとしたらその後治療魔法をかける必要が出てくるので、知識はやっぱりいるのだが。

「フィジャの場合は怪我が治って腕がしっかり機能する必要がありましたから、知識が必須だったんです。蘇生魔法はとりあえず生き返ればなんだっていい、みたいな魔法ですから。心臓が動いていれば成功なんですよ」

 そう返すと、難しい顔をしながら、「確かに、フェルルスは一度生き返った以降はもっと弱くなった気がする」と言った。

 やっぱり魔法、使ってるんじゃないだろうか。雑に蘇生するだけなら、死んだって使える……というか、死んで発動するようにすればいいだけだから。
 きちんと蘇生魔法を使うなら、技術も知識もいるので高度な魔法に分類されるが、心臓をもう一度動かして、障害が残るのも気にせず動けるようになればいい、というのなら、そこまで難しくもない、らしい。
 わたしは怖くて手をつけていない分野だから詳しくはないのだが。

「ただ、獣の頭で魔法を習得できるもんなんですかね……? 結構あれ、大変なんですけども」

「知らないよ。そういうのは目が覚めて元気になったイエリオとして」

 めんどくさそうに会話を切り上げられてしまった。イエリオだったら絶対乗ってきてくれるのに。
 彼は毎回こんなさみしい思いをしていたのか……。今度からまた話に付き合おう。

「とにかく、フェルルスならたいした魔物じゃないでしょ」

「わたしは詳しくないのでよく分かりませんが……まあ、口ぶり的にそうなんでしょうね。ギルドの人に伝えてきたほうがいいでしょうか」

 情報もないままに大丈夫を繰り返すより、具体的な話を出したほうのが説得力が増すだろう。周りも、ただ大丈夫だと言われるより、そっちの方が納得して安心できるはず。

 でも、この状況で二人の元を離れるのも不安だ。

 どうしようかな、と思っていると、イナリさんが「あれ」と指をさした。
 その先には、お医者さんが。わたしやイエリオを治療してくれたのとはまた別の人だ。

「あの人、元・中級冒険者。あっちは現役の下級冒険者。あと向こうの看護師も元・中級冒険者。……ここは冒険者ギルドの支部だから。職員は皆、冒険者出身だから、すぐにはどうこうならないよ」

 知らなかった。戦える人間がいるのなら、二人を置いていっても、多少は平気だろうか。……むしろ、他人がいるところでは極力魔法を使いたくないわたしより、彼らがいる方が安心かもしれない。
 わたしの自己満足でここに来たが、代わりに戦える人間がいるのなら、離れても大丈夫か。

「分かりました。伝えてきます!」

 わたしはそう言って病室を出る。

 ……ところで、なんでイナリさんはこんなにも魔物や冒険者について詳しいんだろう。イエリオさんも魔物に詳しいみたいだったし、一般常識なんだろうか。
 ヴィルフさん経由の情報、という可能性もあるにはあるが、魔物に詳しいことがこの時代の普通なのだとしたら、一般常識を学ぶのは大変そうだ……と思いながら、わたしは階段を下りるのだった。
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