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第三部

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 食われている。そう言われれば、そうとしか見えない。
 城壁を這う『何か』は、その場にとどまり、少しして進む。そうすると、その『何か』がとどまっていた場所にあったはずの城壁が消えている。

 城壁の建材は確かレンガだ。レンガを食べるなんて、と思わないでもないのだが、魔物なら、食べるのかもしれない。
 いや、でも、レンガを食べる魔物が現れる場所で、魔物から街を守る為の壁をレンガで作るだろうか。

 不思議ではあるものの、今、城壁が食べられ、削れているのはまぎれもない事実。もしかしたら、今は城壁の上部を食べている『何か』が、どこかに穴をあけるように城壁を食べ、スパネットを始めとした魔物がそこから侵入したんだろうか。

「――おちついてください! この街の周辺には比較的弱い魔物しか生息していません! すぐに街が魔物に占拠されることはありません! ただいま、冒険者たちが魔物の駆除にあたっています、すぐに元に戻ります!」

 騒ぎを収めようと、炊き出しを配っていたギルド職員(ヴィルフさんを迎えにいったときに入ったギルド職員と同じ制服を着ているのでそうなのだろう)が叫んだ。
 しかし、それも効果がない。

「ふざけんな! そこの猫種の姉ちゃんと一緒にきた兎種が死にかけてただろうが! こ、この辺にも強い魔物がいるんじゃねえのか!?」

 その叫びはやけに騒ぎの中でも通って聞こえた。わたしの話をしているから、耳に届きやすかったわけじゃない。単純に、声が大きいのだ。
 強い魔物がいる。そんな言葉だけが先走って周囲に伝わってしまい、余計に周りはパニックになる。

 まあ、確かにいたにはいたんだけど……。わたしが倒してしまったので、イエリオを殺しかけた魔物は既に息絶えている。

 しかし、それを伝えるのは難しい。
 丸腰のわたしが「倒した」と言っても信じてもらえないだろうし、魔法を使って、と言ったところで、おとぎ話の中にしか存在しないことになっている現代では、説得力なんて全くない。むしろ嘘をついてまで誤魔化さなければいけないのかと、逆に疑われてしまうだろう。
 それに、わたしが倒した魔物以外に強い魔物がいるかもしれないし――なにより、このパニック騒動の中、声は通らないし聞いてもらえないだろう。

 ギルド職員が何度も「大丈夫」「問題ない」を繰り返すも、もう誰の耳にも入らない。

 少なくとも、あの『何か』がいなくなるまでは。

 このままでは、また新たに『何か』が城壁に穴を開け、入口が出来てしまうかもしれない。
 ざわざわと、胸騒ぎがする。
 あの『何か』が倒されるのを待つしかない。でも、その間に、また、グリエバルやあの熊っぽい魔物のように、強い魔物がここに突撃してくるかもしれない。

 そんなとき、イエリオやイナリさんの傍にいられなかったら――。

 急に不安が膨れ上がり、わたしは食べかけのパンを飲み込むように食べ切り、一向に収まる気配のない騒ぎを横目に、病室へと駆けるのだった。
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