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第三部
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「何を――」
「支部へは、ここから、歩いて十分程度。走ればもう少し、早く、行けるはず、です」
「嫌、嫌よ! 絶対嫌!」
確かに、もう少しで着くところではあった。でも、こんな状況で、イエリオを置いていけない。
さっき、ほんの数秒目を離しただけでこんなにも大怪我を負っているのだ。どれだけ全力で走って助けを求めに行っても、その間、無事にやり過ごせるという確証はない。それどころか、手遅れになる可能性の方が高いだろう。
戻ってきたときには息絶えていた、なんて絶対に嫌だ。
「……前文明以外のことには、興味が持てないと、ずっと思っていたんです」
喋るのも辛いだろうに、そんなことを微塵も感じさせないように、イエリオが喋る。
「でも、フィジャ達と知り合って、人と関わることの楽しさを知って――その先で、貴女と出会えて恋を知った。誰も、私と好きなことを共有してくれないと、思っていたのに、とても素敵で素晴らしい時間を、貴女はくれた。だから、もう、十分です。――諦めて、私を置いて行って、支部に助けを求めに行ってください」
諦めて。そう言えば、わたしがうなづくと、イエリオは思っているのだ。
確かに、出会った頃のわたしなら、ここで、諦めたかもしれない。いや、彼を見捨てることはなくても、分かった、助けを呼んでくる、と、走っただろう。
そして彼を助けられなくて――そういう運命だったと諦める。他に方法があったかも、と罪悪感を抱きながらも、でも、もう仕方がないから、とイエリオを忘れるのだ。
――冗談じゃない。
「嫌よ」
「――っ」
断られるとは思っていなかったらしい。イエリオが言葉を詰まらせる。
「絶対に見捨てない。こんな場所に、一人になんかしない。必ず助ける。死に際だと勝手に思い込んで、こっぱずかしいことを言ったと、後で散々からかってあげるんだから」
わたしは乱暴に、怪我をしていない方の手で涙をぬぐった。こんなときに、泣いている場合じゃない。
「――身体強化〈ストフォール〉」
咄嗟に使ったことで魔法が使えるとバレてしまった送電〈サンナール〉ともう一つ、こちらに来たばかりで考えなしに使ってしまって、既に使えることが知られてしまったもう一つの魔法。
わたしはその魔法、身体強化〈ストフォール〉を使って、イエリオを抱き上げる。
重さこそ感じないものの、わたしとイエリオでは結構な身長差があるため、バランスが取りにくい。それでも、落としたら終わりなので、ヴィルフさんを担ぎ上げたときのような、冗談みたいな持ち方は出来ない。
「道案内を、お願いします。絶対、二人で支部にたどりつきましょう」
そう言って、わたしは歩き出した。
「支部へは、ここから、歩いて十分程度。走ればもう少し、早く、行けるはず、です」
「嫌、嫌よ! 絶対嫌!」
確かに、もう少しで着くところではあった。でも、こんな状況で、イエリオを置いていけない。
さっき、ほんの数秒目を離しただけでこんなにも大怪我を負っているのだ。どれだけ全力で走って助けを求めに行っても、その間、無事にやり過ごせるという確証はない。それどころか、手遅れになる可能性の方が高いだろう。
戻ってきたときには息絶えていた、なんて絶対に嫌だ。
「……前文明以外のことには、興味が持てないと、ずっと思っていたんです」
喋るのも辛いだろうに、そんなことを微塵も感じさせないように、イエリオが喋る。
「でも、フィジャ達と知り合って、人と関わることの楽しさを知って――その先で、貴女と出会えて恋を知った。誰も、私と好きなことを共有してくれないと、思っていたのに、とても素敵で素晴らしい時間を、貴女はくれた。だから、もう、十分です。――諦めて、私を置いて行って、支部に助けを求めに行ってください」
諦めて。そう言えば、わたしがうなづくと、イエリオは思っているのだ。
確かに、出会った頃のわたしなら、ここで、諦めたかもしれない。いや、彼を見捨てることはなくても、分かった、助けを呼んでくる、と、走っただろう。
そして彼を助けられなくて――そういう運命だったと諦める。他に方法があったかも、と罪悪感を抱きながらも、でも、もう仕方がないから、とイエリオを忘れるのだ。
――冗談じゃない。
「嫌よ」
「――っ」
断られるとは思っていなかったらしい。イエリオが言葉を詰まらせる。
「絶対に見捨てない。こんな場所に、一人になんかしない。必ず助ける。死に際だと勝手に思い込んで、こっぱずかしいことを言ったと、後で散々からかってあげるんだから」
わたしは乱暴に、怪我をしていない方の手で涙をぬぐった。こんなときに、泣いている場合じゃない。
「――身体強化〈ストフォール〉」
咄嗟に使ったことで魔法が使えるとバレてしまった送電〈サンナール〉ともう一つ、こちらに来たばかりで考えなしに使ってしまって、既に使えることが知られてしまったもう一つの魔法。
わたしはその魔法、身体強化〈ストフォール〉を使って、イエリオを抱き上げる。
重さこそ感じないものの、わたしとイエリオでは結構な身長差があるため、バランスが取りにくい。それでも、落としたら終わりなので、ヴィルフさんを担ぎ上げたときのような、冗談みたいな持ち方は出来ない。
「道案内を、お願いします。絶対、二人で支部にたどりつきましょう」
そう言って、わたしは歩き出した。
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