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第三部

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 魔法に失敗して、獣人になりそこなった動物が魔物。……確かに、ディンベル邸へ向かう途中で見かけた魔物は分かりやすくゾウに似ていたし、言われてみれば、遭遇した魔物はどれもどことなく動物に似ている気がする。

 そう考えると、人に近いほど好かれて、動物に近いほど嫌われるのは道理なのかもしれない。獣に近ければただでさえ人とは遠いのに、魔物に近くなってしまう。
 それ故、ヴィルフさんはあちこちで嫌われているのだろうか。
 わたしはかっこいいと思うけど、魔物が怖い、嫌い、と忌避されているのなら、人よりも獣――魔物に近いヴィルフさんは差別対象になってしまう理屈は理解できる。

 先祖は同じなのに、そんなにも別れてしまうのか……とは一瞬思ったものの、わたしだって別にチンパンジーや猿を人間扱いしたことはない。
 いや、ということは――。

「マレーゼさんから特徴を聞く限り、貴女が見たものは魔物で間違いないと思うのですが……なるほど、元はムシという生物も存在していたのですね」

 やっぱり、あれはアティカが魔物となった姿なのか……。自分より大きな虫、というだけでぞわぞわと鳥肌が立って気持ち悪い。元々、虫は好きじゃない。退治が出来ないほど無理、というわけではないが……いやでもあのサイズは無理だ。

「魔物……だとすると、周りに伝えた方がいいのかな」

 そうは言ってみたものの、どう伝えればいいのだろうか。
 休憩室に窓はなく、出入口はわたしの背後にある扉だけ。ここから出て誰か見つけないといけないわけだが、あの巨大アティカがいるかもしれない廊下に出る勇気はない。走って逃げ切れるかも分からないし。

「冒険者が巡回しているはずなので、おそらくは大丈夫かと――ああ、ほら」

 そんなことを話していると、タイミングよく、館内放送が入る。敷地内に魔物が出現したので、どこか鍵をかけられる場所に逃げこめ、という内容だった。

「どんな魔物がいるか分かりませんから、上級冒険者が何人かいるんです。室内に入れるくらいの魔物であれば、彼らにまかせておけば大丈夫ですよ」

「――よかった」

 わたしはホッと息を吐く。未知の生物は何だって怖い。流石にどんな魔法も聞かない魔物、というのはいないだろうが、こんな場所であれこれ魔法を乱発するわけには行かない。魔法が使えないのなら、わたしの戦闘力なんてたいしたものじゃない。

「それにしても、魔物の元となった生き物――ひいては私たちの先祖の話は、非常に興味があるのですが……」

 好奇心半分、場を和ませる為の冗談半分、と言った風にイエリオが言う。
 わたしは緊張した空気が緩くなったのを感じながら、「いや、休んで」と軽く笑いながら流した。
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