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第三部

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「いや、本当に帰ってこないな?」

 イエリオが帰ってこないのがなんとなくさみしいな、つまんないな、と思っていたのも最初のうちだけで。元より他人と交流していないとさみしくて死んでしまう……という性格ではないので、最近はもう帰ってこなくても大丈夫になってきてしまっていた。
 つまりは、そのくらい帰ってこないのである。

 研究所の場所は知っているものの、行っても入れるかどうか分からない。研究所の一般公開している部分、というか、資料展示ホールみたいな場所は自由に行くことができるだろうが、イエリオのいる研究室には部外者以外立ち入り禁止の雰囲気が漂っている。

 ディンベル邸の調査には立ち会ったものの、研究所的には中止という形にはなるものの終了しているので、関係者です、という顔をして中に入る勇気はない。
 コテルニアの布に関してアドバイスしたのも事実だが、協力要請がこないということはわたしは関係者として見られないだろうし、それを理由に行くのもなんだか抵抗があった。

 フィジャに「帰ってこないんだけど大丈夫かな、生きてる?」と相談しに行ったが、「研究所に泊まり込むときはいつもそんなんだよぉ」と言われた。普段から割とあんな感じで、わたしがこの時代に来る前、四人でつるんでいるだけのときも、たびたび飲みの集まりに参加しないで研究に没頭することもあったそうで。

 ここまで来ると、さみしさとかそんなものは薄れて、逆に心配になってくる。
 研究所に泊まり込むということは、その気になれば寝食を削って好きなだけ研究に打ち込めるというわけである。……寝るのも食べるのも、休憩を最低限にして机に向かう姿しか想像できない……。「研究するのが一番の休憩です!」とかわけの分からないこと言ってそうだな……。

 あと二、三日様子を見て、それでも帰ってこなかったら研究所に行こう。資料展示ホールの受付の人にでも聞けば安否確認くらいはしてくれるはず……してくれるよね?

 ちょっと不安になりつつも、わたしはイエリオの家を出る。ご飯の材料が何にもないのだ。
 最近はずっと一人で、ちゃんと作るのも面倒だし、と適当に作ってきたのだが、流石に何もないと作るものも作れない。

 いちいちレシピを確認して材料を買ってくるのではなく、冷蔵庫の中身をチェックして献立を考えられるようになってきたのは成長だな……と思いながら、イエリオの家から少し遠いスーパーで品物を物色していると、目に濃いクマを付けたオカルさんを発見した。

 何やら、小さい小瓶をいくつも購入している。この時代のものは全て把握しているわけではないので、確実なことは言えないが、前世のコンビニとかでよく見る、栄養ドリンクの類似品に見えた。

 ……本当に大丈夫か?
 そう思いながらも、丁度いいや、とわたしはオカルさんに声をかけることにした。
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