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第三部
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調査二日目、三日目は特別めぼしいものも見つけられず、泣く泣く帰ることになったものの、行きのように危ない魔物と遭遇することもなくすんなり帰ることが出来たのは不幸中の幸いだった。
そして、調査終章から数日――この世の終わりかと言わんばかりに落ち込んだイエリオさんがいた。イエリオさんの帰りを街ながら、夕食作りをしていたのだが、イエリオさんが帰ってきてわたしを見るなり、膝をついて床にうずくまってしまったのである。
最初は体調が悪いのかと思ったが、べそべそと泣き声が聞こえてくるので、どうやら違うらしかった。
「――中止、だそうです」
「中止?」
「あの遺跡は、もう調査しない、と。そう決まったそうです」
えっ、とわたしは思わず声をこぼした。
イエリオさんとオカルさん、二人と帰路で「次はいつになりますかねえ」なんて話をしていたのに。てっきり次も行けるものだと思っていたから、わたしたちは壁の向こうを諦めたというのに。
「予想以上に屋敷の状態が悪いようで、壁を壊した際にどのくらい屋敷が残るのか分からないから、簡単に壁を壊してその先を調べる許可は出せない、と」
「あらあ……」
確かにあの屋敷は酷かった。上手く壁を壊さないとあの部屋の辺りがごそっとなくなってしまうのは、想像に固くない。二階の奥の部屋の床が抜け、あの辺りがなくなってしまうのならまだいい方で、最悪、一階まるごとなくなる可能性も十分にありそうだ。
それに、あのディンベル邸には文字通りなにもなくて。あの先に何かがあると確実に言えればまた話は変わってくるだろうが、現状、わたしたちの勝手な妄想なのである。
イエリオさんたちが、過去の文献を調べ、魔法があった時代の便利な技術・文化の再現が主な研究内容だったとしたら、期待できない場所にお金はかけられない、ということで。
これだったら、魔法を使ってうまいことこっそり穴でも開けて、無理に覗いてみれば良かった。
わたしが送電〈サンナール〉と身体強化〈ストフォール〉を使えることは研究所に知れてしまっているだろうから、これ以上、他の魔法が使えることを知られてしまうのはよろしくない。あれこれ聞かれるだけならまだしも、実験体にされるのは嫌だし、魔法を教えてくれと乞われても困る。わたしだって弟子の身、人に教えられるだけの人間じゃない。
だから、今から魔法を使ってこっそり、というのは難しい話だった。壁に穴を開ければ屋敷の一部が倒壊する、という試算が出る前にやってしまえば……もう、今更なことではあるけど。
「諦めましょう、イエリオさん」
わたし自身は諦めが早い方ではあるものの、他人に諦めることを強要するのは抵抗があるが――今回ばかりは仕方がない。別に不当な圧力とかではなく、壁を壊したら屋敷も倒壊かもしれないから、という正当な理由なので。
「とりあえずご飯とお風呂、済ませちゃいましょ。そしたらコテルニアの布の改良の話をしましょう。今日、当時の資料の写しと制作時の資料を持って帰って来るって言ってたじゃないですか」
慰めになるかは分からないが、わたしはしゃがんでイエリオさんの肩に手を槍ながら言った。
そして、調査終章から数日――この世の終わりかと言わんばかりに落ち込んだイエリオさんがいた。イエリオさんの帰りを街ながら、夕食作りをしていたのだが、イエリオさんが帰ってきてわたしを見るなり、膝をついて床にうずくまってしまったのである。
最初は体調が悪いのかと思ったが、べそべそと泣き声が聞こえてくるので、どうやら違うらしかった。
「――中止、だそうです」
「中止?」
「あの遺跡は、もう調査しない、と。そう決まったそうです」
えっ、とわたしは思わず声をこぼした。
イエリオさんとオカルさん、二人と帰路で「次はいつになりますかねえ」なんて話をしていたのに。てっきり次も行けるものだと思っていたから、わたしたちは壁の向こうを諦めたというのに。
「予想以上に屋敷の状態が悪いようで、壁を壊した際にどのくらい屋敷が残るのか分からないから、簡単に壁を壊してその先を調べる許可は出せない、と」
「あらあ……」
確かにあの屋敷は酷かった。上手く壁を壊さないとあの部屋の辺りがごそっとなくなってしまうのは、想像に固くない。二階の奥の部屋の床が抜け、あの辺りがなくなってしまうのならまだいい方で、最悪、一階まるごとなくなる可能性も十分にありそうだ。
それに、あのディンベル邸には文字通りなにもなくて。あの先に何かがあると確実に言えればまた話は変わってくるだろうが、現状、わたしたちの勝手な妄想なのである。
イエリオさんたちが、過去の文献を調べ、魔法があった時代の便利な技術・文化の再現が主な研究内容だったとしたら、期待できない場所にお金はかけられない、ということで。
これだったら、魔法を使ってうまいことこっそり穴でも開けて、無理に覗いてみれば良かった。
わたしが送電〈サンナール〉と身体強化〈ストフォール〉を使えることは研究所に知れてしまっているだろうから、これ以上、他の魔法が使えることを知られてしまうのはよろしくない。あれこれ聞かれるだけならまだしも、実験体にされるのは嫌だし、魔法を教えてくれと乞われても困る。わたしだって弟子の身、人に教えられるだけの人間じゃない。
だから、今から魔法を使ってこっそり、というのは難しい話だった。壁に穴を開ければ屋敷の一部が倒壊する、という試算が出る前にやってしまえば……もう、今更なことではあるけど。
「諦めましょう、イエリオさん」
わたし自身は諦めが早い方ではあるものの、他人に諦めることを強要するのは抵抗があるが――今回ばかりは仕方がない。別に不当な圧力とかではなく、壁を壊したら屋敷も倒壊かもしれないから、という正当な理由なので。
「とりあえずご飯とお風呂、済ませちゃいましょ。そしたらコテルニアの布の改良の話をしましょう。今日、当時の資料の写しと制作時の資料を持って帰って来るって言ってたじゃないですか」
慰めになるかは分からないが、わたしはしゃがんでイエリオさんの肩に手を槍ながら言った。
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