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第三部

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 ――マレーゼ。

「――?」

 名前を呼ばれたような気がして目を覚ます。でも、周りには、わたしを呼ぶような人は誰もいない。
 イエリオさんはまだ寝ているし、テントの外にも、人の気配は感じられなかった。少なくとも、声をテントの外からかけられて気が付く距離には。

 気のせい、だろうか。それとも、夢を見ていただけなのかも。

 わたしは上半身を起こして、ぐっと伸びをする。テントの中はまだ少し暗かったが、寝るときに灯りを消した時ほど真っ暗ではない。時計を見れば、早起きではあるものの、二度寝をするのにはちょっと迷うような時間だった。

 二度寝をする余裕はあるけれど、二度寝したらすっきり気分よく目覚められる気がしない。
 それならいっそ、今起きてしまった方がいいだろう。

 ちらっとイエリオさんを見る。
 うーん、今着替えるのはいくらなんでもどうかな……。結構寝入っているようには見えるけど、物音で起きられて、着替えを見られたらちょっと、ねえ……。形式上は夫婦になる、といっても、まだ流石に着替えを見られるのは抵抗がある。抵抗がなくなる日が来るかは分からないけど。
 いや、仮に彼を恋愛対象として見たとしても、夫婦として長く連れ添っても、着替えを見られるのは普通に嫌だな。

 わたしは着替えるのを諦め、昨日体を拭いたのと同種の布で顔を拭き、外に出る。ただぼーっとしているだけではまた寝てしまいそうなので。
 寝巻、と言っても、本当に家でちゃんと寝るときに着るようなパジャマではなく、そのまま外に出ても構わないような、寝やすいワンピースである。フィジャとの買い物で買ったやつだ。
 もしかしたら魔物に襲われて逃げなきゃいけない場合があるかもしれないのに、他人に見せられないような格好で寝るわけにはいかない。

 イエリオさんを起こさないように、静かに外を出ると、空が白み始めていた。夜明けである。
 テント地の中央にある焚火がパチ、パチ、と音を立てている。一晩中、火は消えなかったんだろう。夜警のためにも付けたままだと言っていたし。

「あ、マレーゼちゃん、おはよ。もう起きたの? 早いね」

「……げ」

 焚火の傍にいたのはジグターさんだった。どうやら今の時間はジグターさんが警備で、ヴィルフさんは休憩中らしい。
 タイミング悪かったなあ。でも、挨拶されたら返すのが礼儀だとは思うので、「……おはようございます」と挨拶だけは返しておく。

 あの三人組のように警戒はしているけれど、まだ何もしていないので、、自意識過剰だと思われたらそれはそれで腹が立つので露骨な態度はあまり取れない。気持ち悪いこと言われたら気持ち悪いと返すくらいがせいぜいだ。

「こっちきたら? まだ寒いでしょ」

「……」

 確かに、朝は日が昇るまで少し肌寒い。日がある日中は過ごしやすく暖かいけれど、日が出ていない間は少し肌寒い、というのがここの気候らしい。
 別に、彼と会話を続ける為ではないが、寒いのは本当なので、焚火に当たることにした。
 日が昇ったら、集合時間まで屋敷の方を見に行こう。今いるのは、少しだけだ、と言い聞かせて。
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