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第三部
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「マレーゼさん……」
長々と前文明の話をするのが苦じゃない、というのがそんなに嬉しかったのだろうか。目がきらきらと輝いている。……嫌な予感がするぞ。
「で、でしたら是非、シーバイズ語を教えていただきたく! 流石にそこまでは迷惑かと思っていたのですが、嫌でないのならお願いします!」
「え、ええ、まあ、分かる範囲でなら……」
知識欲に輝いた目で迫ってくるイエリオさんが近い。多分興奮して気が付いていないんだろう。圧が凄い、圧が。
「知ってる範囲、ですか? でも、貴方先日まで――」
「うわ、わ―――うわっ!? ぃでっ!」
先日まで、の先は何を言い出すつもりだ。折角わたしが濁したのに。
駄目だ、やっぱり駄目だ、わたしとイエリオさんは第三者(フィジャたちを除く)の目があるところで前文明の話をするべきじゃないな、これ。
わたしは現代でどれだけの文化・文明が継承されているかのラインが曖昧になるし、イエリオさんは興奮して、わたしが過去の人間であることを隠しているのを忘れる。
最悪の組み合わせだ、と思いながらとりあえず叫んで誤魔化そうとして――普通に悲鳴を上げた。そしてそのまま舌を噛んだ。
思いっきり荷車が揺れたのである。
ぼすん、とそのままイエリオさんに倒れ込んでしまうが、照れている場合ではない。一瞬にして、辺りに緊張感が走ったからである。
周りを見渡せば、ヴィルフさんがいないし、御者のジグターさんも御者台から下りている。車を急停止させた上に、ヴィルフさんが飛び出たものだから、荷車がこんなにも揺れたのかもしれない。
何があったのか、わたしには分からないが、周りの人は全員何かに気が付いている。……偽物の獣人の耳より、本物の獣人の耳の方が、聴力がずっと優れているからだろうか。わたしのこれは、あくまでも見かけだけなので。構造をもっと理解していればそう作ることも出来るには出来るのだが、今のわたしには無理な話で。
とはいえ、場所が場所なので魔物が出たのかもしれない。
でも、前回行ったときは、出会う魔物は中型犬サイズの魔物ばかりで、大きくても大型犬。そのどれもを、ヴィルフさんはさらっと切り倒していて。
この辺りは弱い魔物しか出ない、とヴィルフさん自身が言っていたはずなのに、そんなに慌てて飛び出る程だろうか――と思っていると、わたしにの耳にもようやく届いた。
ドシン、ドシン、と、明らかに大型犬サイズレベルのものではない、足音が。
荷車には、布で屋根が作られているのだが、側面部は窓の様に開くようになっている。今は紐で結ばれて閉じられているが。
その窓にあたる部分から、わたしは紐を解いて中から外を伺ってみる。
「な、なんですか、あれ」
外には、ヴィルフさんが剣を抜いて構えていて。
そのヴィルフさん越しに、馬鹿みたいにでかい、どことなくゾウに似た――でも、ゾウなんかとは比べ物にならないくらい大きな生物がいた。
長々と前文明の話をするのが苦じゃない、というのがそんなに嬉しかったのだろうか。目がきらきらと輝いている。……嫌な予感がするぞ。
「で、でしたら是非、シーバイズ語を教えていただきたく! 流石にそこまでは迷惑かと思っていたのですが、嫌でないのならお願いします!」
「え、ええ、まあ、分かる範囲でなら……」
知識欲に輝いた目で迫ってくるイエリオさんが近い。多分興奮して気が付いていないんだろう。圧が凄い、圧が。
「知ってる範囲、ですか? でも、貴方先日まで――」
「うわ、わ―――うわっ!? ぃでっ!」
先日まで、の先は何を言い出すつもりだ。折角わたしが濁したのに。
駄目だ、やっぱり駄目だ、わたしとイエリオさんは第三者(フィジャたちを除く)の目があるところで前文明の話をするべきじゃないな、これ。
わたしは現代でどれだけの文化・文明が継承されているかのラインが曖昧になるし、イエリオさんは興奮して、わたしが過去の人間であることを隠しているのを忘れる。
最悪の組み合わせだ、と思いながらとりあえず叫んで誤魔化そうとして――普通に悲鳴を上げた。そしてそのまま舌を噛んだ。
思いっきり荷車が揺れたのである。
ぼすん、とそのままイエリオさんに倒れ込んでしまうが、照れている場合ではない。一瞬にして、辺りに緊張感が走ったからである。
周りを見渡せば、ヴィルフさんがいないし、御者のジグターさんも御者台から下りている。車を急停止させた上に、ヴィルフさんが飛び出たものだから、荷車がこんなにも揺れたのかもしれない。
何があったのか、わたしには分からないが、周りの人は全員何かに気が付いている。……偽物の獣人の耳より、本物の獣人の耳の方が、聴力がずっと優れているからだろうか。わたしのこれは、あくまでも見かけだけなので。構造をもっと理解していればそう作ることも出来るには出来るのだが、今のわたしには無理な話で。
とはいえ、場所が場所なので魔物が出たのかもしれない。
でも、前回行ったときは、出会う魔物は中型犬サイズの魔物ばかりで、大きくても大型犬。そのどれもを、ヴィルフさんはさらっと切り倒していて。
この辺りは弱い魔物しか出ない、とヴィルフさん自身が言っていたはずなのに、そんなに慌てて飛び出る程だろうか――と思っていると、わたしにの耳にもようやく届いた。
ドシン、ドシン、と、明らかに大型犬サイズレベルのものではない、足音が。
荷車には、布で屋根が作られているのだが、側面部は窓の様に開くようになっている。今は紐で結ばれて閉じられているが。
その窓にあたる部分から、わたしは紐を解いて中から外を伺ってみる。
「な、なんですか、あれ」
外には、ヴィルフさんが剣を抜いて構えていて。
そのヴィルフさん越しに、馬鹿みたいにでかい、どことなくゾウに似た――でも、ゾウなんかとは比べ物にならないくらい大きな生物がいた。
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