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第二部

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 ――翌朝。

 目が覚めて、部屋から出ても、フィジャの姿はベッドの上にはなかった。
 リビングへ出れば、キッチンで朝食作りをしているフィジャが、カウンター越しに見えた。こちらには気が付いていないようだ。

 昨日、あの後、特にラブストーリーのようなアレソレが起こるわけでもなく、普通に後片付けを再開して、それぞれシャワーを浴びで寝たのだが、プロポーズという一大イベントがあった翌日である。
 意識しないとか、無理だ。

 え、どんな顔して行けばいいの? いつもどんな顔で挨拶してたっけ? ……なんか普通におはよーって声かけて顔を洗いに行っていたような……。
 待って? 今まで洗顔も髪のセットもろくにしていない寝起きの顔をフィジャに見られていたということ……? 今更気が付いたけど、それは女子としてどうなんだ?
 一緒に生活しているんだし、これから何十年と共に暮らすことになるんだからそりゃあ何回だって見られてしまうことはあるだろうけど、こんな、最初の方から気が抜けてて大丈夫なんだろうか。

 いや、逆にそれだけリラックスできて相性がいい、ということか……? わたしがずぼらというわけではないはず。多分……きっと、おそらく。

「あ、起きた? おはよう、マレーゼ」

「お、おはよう……」

 わたしが出方を悩んでいる内に気が付いたらしい。パッと笑顔で挨拶をしてくれるフィジャ。
 彼の首には、なにもなくて。本当に一晩で外してしまったらしい。

「朝ごはんもう出来るから、顔洗ってきたら?」

「そうします……」

 プロポーズをして、フィジャが吹っ切れたのか。
 それとも、プロポーズをされて、わたしが意識しまくっているのか。

 どちらが正解なのかは分からないけれど、フィジャの笑顔が、どうしても、『好きでしかたない!』と物語っているような笑顔に見えてしょうがない。
 その笑顔を見てしまうと、どうにも、胃の底がきゅうっとなって、平然とした表情を保てなくなる。

 どきどきと早鐘をうつ心臓の音を聞かれないように、わたしはささっと洗面所に移動する。いや、心臓の音なんて、普通に離れていたら聞かれるわけないんだけど。

「――……」

 顔を洗うか、と立った洗面台の鏡に、分かりやすく真っ赤になったわたしが映っていて、思わず黙り込んでしまった。

 家が出来るまで、あとどのくらいか。まだまだ先の様できっとあっという間だろうから、それまでに答えを出さなきゃ、と昨晩、考えながらベッドにもぐりこんだはずなのに。
 それ以前に、あと一か月、フィジャとどうやって生活していこう、とわたしはバシャバシャと火照る顔を冷やすように洗いながら、頭を悩ませるのだった。
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