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第二部
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最初に脱落したのはやっぱりイエリオさんだった。が、前回とは違い、イエリオさんとイナリさんは明日仕事らしいので、イエリオさんが根を上げたころ、お開きとなった。
まあ、すでに結構な時間なので、帰りつもりだったのならもう少し早く切り上げてもよかったのでは……と思ったが、口にしない。なんだかんだ、皆楽しそうで、明日仕事があることなんて考えたくなかったんだろう。
フィジャは魔法で完治したとはいえ怪我が治ったばかりなので、少しお酒を飲んだだけで全然酔っていないし、わたしもわたしで、魔力が回復しきったばっかでお酒をガパガパ飲む気にもなれなかったので、乾杯の分の一杯しか飲んでいない。早くに眠くなってしまっては、もったいないので。
そんなわけで、二人でイエリオさんたちを見送り(なお、イエリオさんはヴィルフさんに担がれていた)、後片付けをしていた。わたしがやるよ、とは言ったのだが、二人でやろう、とフィジャが譲らなかった。
こうして二人でキッチンに立つのが、すごく久しぶりに感じる。フィジャの家にお世話になるのも、残り一か月ちょっとだ。あと何回一緒に立てるか……としんみりするほどでもないが、それでも一か月なんてあっという間だ。
少しさみしいな、と思ってしまう。別に、家が出来れば一緒に暮らすことになるんだけど……。
――いや、そうか。そうだ。
ふと、フィジャに、まだ何も話していないことに気が付いてしまった。別に忘れていたつもりはない。ちゃんと、わたしがどう思っているのか話すつもりではあった。タイミングが、なかっただけで。
今、チャンスなんじゃ? と思う反面、気が付いたことにより緊張しだして、どうしよう、という思いもある。お酒が入っていない時の方がいいか? と、逃げの案まで見えてきてしまった。たいして酔ってないのに。
いや、でも、話すなら今。邪魔も入らないだろうし、二人きりだし。え、どう話す? どう切り出す?
ぐるぐると頭の中で言葉がめぐる。緊張して、どうしてか、やけに洗い物をするために流した水道の水の音が、大きく聞こえる気がする。
「――あれ、どうしたの? 大丈夫、酔った? 後はボクがやっておこうか?」
洗い物をするのがわたしで、食器を拭いて片付けるのがフィジャ。そういう分担で後片付けをしていたのだが、わたしの手が止まったことに気が付いたフィジャが声をかけてくる。
違う、酔ってなんか、ない。
わたしの顔はきっと真っ赤だろう。すごく、頭が熱いから、見なくたって分かる。でも、この赤は、お酒によるものじゃないのだ。
シーバイズ時代にはほとんど恋愛なんてしてこなかったけど、その前――前世では、学生時代のお付き合い、というやつくらいは経由している。全く色恋沙汰の経験がなかった分けじゃないが、そんなのせいぜい手を繋いでデートする程度。肉体関係なんてとてもじゃないけど、考えられないようなもので。
だから、だろうか。こんなにも緊張するのは。
まあ、すでに結構な時間なので、帰りつもりだったのならもう少し早く切り上げてもよかったのでは……と思ったが、口にしない。なんだかんだ、皆楽しそうで、明日仕事があることなんて考えたくなかったんだろう。
フィジャは魔法で完治したとはいえ怪我が治ったばかりなので、少しお酒を飲んだだけで全然酔っていないし、わたしもわたしで、魔力が回復しきったばっかでお酒をガパガパ飲む気にもなれなかったので、乾杯の分の一杯しか飲んでいない。早くに眠くなってしまっては、もったいないので。
そんなわけで、二人でイエリオさんたちを見送り(なお、イエリオさんはヴィルフさんに担がれていた)、後片付けをしていた。わたしがやるよ、とは言ったのだが、二人でやろう、とフィジャが譲らなかった。
こうして二人でキッチンに立つのが、すごく久しぶりに感じる。フィジャの家にお世話になるのも、残り一か月ちょっとだ。あと何回一緒に立てるか……としんみりするほどでもないが、それでも一か月なんてあっという間だ。
少しさみしいな、と思ってしまう。別に、家が出来れば一緒に暮らすことになるんだけど……。
――いや、そうか。そうだ。
ふと、フィジャに、まだ何も話していないことに気が付いてしまった。別に忘れていたつもりはない。ちゃんと、わたしがどう思っているのか話すつもりではあった。タイミングが、なかっただけで。
今、チャンスなんじゃ? と思う反面、気が付いたことにより緊張しだして、どうしよう、という思いもある。お酒が入っていない時の方がいいか? と、逃げの案まで見えてきてしまった。たいして酔ってないのに。
いや、でも、話すなら今。邪魔も入らないだろうし、二人きりだし。え、どう話す? どう切り出す?
ぐるぐると頭の中で言葉がめぐる。緊張して、どうしてか、やけに洗い物をするために流した水道の水の音が、大きく聞こえる気がする。
「――あれ、どうしたの? 大丈夫、酔った? 後はボクがやっておこうか?」
洗い物をするのがわたしで、食器を拭いて片付けるのがフィジャ。そういう分担で後片付けをしていたのだが、わたしの手が止まったことに気が付いたフィジャが声をかけてくる。
違う、酔ってなんか、ない。
わたしの顔はきっと真っ赤だろう。すごく、頭が熱いから、見なくたって分かる。でも、この赤は、お酒によるものじゃないのだ。
シーバイズ時代にはほとんど恋愛なんてしてこなかったけど、その前――前世では、学生時代のお付き合い、というやつくらいは経由している。全く色恋沙汰の経験がなかった分けじゃないが、そんなのせいぜい手を繋いでデートする程度。肉体関係なんてとてもじゃないけど、考えられないようなもので。
だから、だろうか。こんなにも緊張するのは。
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