上 下
105 / 452
第二部

104

しおりを挟む
 そうして、わたしは明け方、精霊の生成に成功した……成功した、んだよな、これ?
 『産みだされた』精霊は、精霊のなりそこないないしなる前の集合体なので、精霊として長く生きている、『召喚された』精霊よりは、質が悪い。でも、精霊には違いないので、今回の救いになればと思って産みだしたわけだが……。

 想像していた見た目とは違いすぎて、成功したのか自信がない。わたしとしては、前世の漫画や絵本でよく見る妖精のような、小人に蝶の翅が生えたようなものを想像していた。
 実際、師匠が使いっぱしりとして契約していた精霊は、普段は光のもやのような形をとり、気が向いたときは人のような姿をしていたので、てっきりそういう感じのがくるとばかり思っていたのだが。

 全長百センチ前後の、白い芋虫みたいなこれが精霊とは……誰が気が付くだろうか。しかも、団子みたいな足がいくつもついていて、ちょっとムカデっぽくもある。でも、頭には猫の耳のような突起があって、お前は一体どういう生物なんだと聞きたくなる。精霊なんだけども。
 顔だけはゆるキャラのようにちょっと可愛いのがまたなんとも言えない。
 召喚された精霊に、蝶の翅があるなら、精霊になるまえの集合体である産みだされた精霊は、芋虫ということなのか……?
 ぱっと見は本当にでかい芋虫にしか見えなくて、なんというか……。

「きもちわる……」

「気持ち悪いとはなんなの! 折角集まってやったのに!」

 思わずこぼしてしまった言葉に、きゃんと噛みつくように、芋虫から文句が飛んでくる。ちゃんと言葉が交わせている以上、見た目に反して知能はしっかりしていそうだ。めちゃくちゃロリ声というか、アニメ声というか、そういう媚びた感じの声なのが気になるが。

「精霊さん……でいいんだよね。ええと……あなたの名前は……」

 精霊を呼び出したり、産みだしたりした場合、上下関係を教え込む為にも、名前を付けるのは必須である。必須なのだが……。
 これになんて名前を付けたらいいんだ……。元より、魔法を覚えることに必死で、名前を考えていなかったこともあるが、想像もしていなかった見た目のものが出てきて、完全に意識がそっちにいってしまい、ろくに名前が浮かんでこない。

「……あなたの名前はしろまるよ」

 完全に思考が止まった名前を、わたしは絞り出した。仕方がないのだ、名づけに悩んで、向こうが名前を勝手に決めてしまったら、わたしのほうが上に立てない。
 いいじゃないか、これからの、フィジャの腕を治せるかの勝負に〇(白星)を付けるための精霊ってことで。うん、そういうことにしよう。

 精霊、改め、しろまるは不服そうな顔をしたものの、何も言わなかった。大事にしてくれ、この名前。

「あなた、本当に医療の知識を持った精霊……なのよね?」

「むむ……しろまるは土属性だから、水属性寄りの、病気のことはあんまり詳しくないの。簡単な奴しかわかんないの。でも、怪我はだいじょーぶ!」

 そういうと、しゃがんでしろまるにはなしかけていたわたしの腕を伝って、ぐるりと両肩にわたってのってくる。もしょもしょと首筋のあたりがくすぐったくて、気持ちわるい。

「ほら、耳に手を当てて。早くするの。しろまるがサポートしてやるから、治癒〈ソワンクラル〉を使うつもりで魔力を集めるの」

 言われた通りに耳に軽く手をあてる。治癒〈ソワンクラル〉は怪我を治す魔法だ。主に切り傷や擦り傷なんかに使う。
 本当に大丈夫なのか? と思いつつも、わたしは、治癒〈ソワンクラル〉を使った――使ったはずだった。

「う、わ!?」

 使うのが習得したとき以来とはいえ、あのときとは比べ物にならないくらい、ぶわっと一気に魔力を持っていかれる感覚がする。え、これ本当に治癒〈ソワンクラル〉? もっとヤバいの発動してない? そんなわけないと分かっていても、魔力が急激に抜けていく感覚に、ぞわぞわしてしまう。

「……ほら、治ったの」

 治った? 何が? と耳を触って、わたしの指がガーゼにあたり、気が付く。
 まさか、とわたしはしろまるを肩に載せたまま、洗面所へと向かった。
 鏡の前でガーゼを剥がすと、変態〈トラレンス〉が解けたときにかきむしってしまった跡が、綺麗さっぱりなくなっていた。

「すごい……」

「ふふん、もっと言ってもいいの!」

「天才、最高、しろまる様万歳!」

 わたしはしろまるに手を添え、そのままくるくると回った。

「しろまる、わたし、怪我を治したい人がいるの。お願いできる?」

「しょーがないから、まかされてやるの。 しろまる、怪我ならなんでも治せるから!」

 これなら、きっとフィジャの腕も治せる!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです

狼蝶
恋愛
 転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?  学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?

美醜逆転の異世界で私は恋をする

抹茶入りココア
恋愛
気が付いたら私は森の中にいた。その森の中で頭に犬っぽい耳がある美青年と出会う。 私は美醜逆転していて女性の数が少ないという異世界に来てしまったみたいだ。 そこで出会う人達に大事にされながらその世界で私は恋をする。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

男女比が偏っている異世界に転移して逆ハーレムを築いた、その後の話

やなぎ怜
恋愛
花嫁探しのために異世界から集団で拉致されてきた少女たちのひとりであるユーリ。それがハルの妻である。色々あって学生結婚し、ハルより年上のユーリはすでに学園を卒業している。この世界は著しく男女比が偏っているから、ユーリには他にも夫がいる。ならば負けないようにストレートに好意を示すべきだが、スラム育ちで口が悪いハルは素直な感情表現を苦手としており、そのことをもどかしく思っていた。そんな中でも、妊娠適正年齢の始まりとして定められている二〇歳の誕生日――有り体に言ってしまえば「子作り解禁日」をユーリが迎える日は近づく。それとは別に、ユーリたち拉致被害者が元の世界に帰れるかもしれないという噂も立ち……。 順風満帆に見えた一家に、ささやかな波風が立つ二日間のお話。 ※作品の性質上、露骨に性的な話題が出てきます。

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける

朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。 お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン 絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。 「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」 「えっ!? ええぇぇえええ!!!」 この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

美醜逆転の世界に間違って召喚されてしまいました!

エトカ
恋愛
続きを書くことを断念した供養ネタ作品です。 間違えて召喚されてしまった倉見舞は、美醜逆転の世界で最強の醜男(イケメン)を救うことができるのか……。よろしくお願いします。

男女比が狂った世界で史上初の女性Vtuberになっててっぺんとります‼︎

いつき
恋愛
過去にいじめにあった経験を持つ少女。藍葉蜜(あいば みつ)は、ある日目が覚めると世界が男女比が狂った女性至上主義の世界に変わり果てていた! この世界でなら虐められないかもしれないと思い外に出ようとする蜜だが、長年の引きこもりのせいでまともに人と話せない状態に⁉︎ かろうじて顔を合わせなければ話せるため、特訓として蜜はVtuberとして活動を始めるが、この世界において女性がVtuberをするのは史上初の事で__________。

処理中です...