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第二部

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「それで、あの、気持ち悪いっていうのは……痣の跡が、ってこと?」

 気持ち悪くないの、と言われても、わたしの価値観からしたら、何が気持ち悪いのか、具体的には分からない。
 わたしだって聖人じゃないから、肌の一部が、広域に渡って酷くケロイドになっていたり、ひび割れるくらいに肌が乾燥しているのが広がっていたらそりゃあ「うわっ」とはなる。まあ、わざわざ指摘するほどの性根の悪さはないが。
 でも、フィジャの痣なんて、親指の爪くらいの大きさしかない。わたしだって、派手にどこかへぶつければ、あれより大きな青あざが出来るだろう。
 それをどうして、気持ち悪いと思われる、と思ったのか。

 わたしにはよくわからないが、あの痣は、フィジャにとって誰にも知られたくないもので、心のやわらかいところに相当するのだろう。
 だからこそ、多少残酷ではあるが、どうして嫌なのか、知らないといけないと、思うのだ。このまま知らないままでいることも出来るけど、見てしまった以上、フィジャは引きずり続けるだろうし、価値観を擦り寄せていかないと、わたしの言動は劇薬にも鋭いナイフにもなる。――わたしの知らないところで。
 これからもフィジャと共にいたいのなら、分からないと諦めるのではなく、彼を知っていかなければならない。

「――……黒い鱗、あったでしょ」

「……うん」

 記憶が曖昧なので、どのくらいあったか、と聞かれるとちょっと分からないが、確かにあの赤黒い痣以外にも、ちらほらと、黒いものが見えた気がする。あれが鱗なんだろう。

「三色の鱗ってね、蛇種の中でも、一等嫌われるんだ。場所が太ももなのが不幸中の幸いってところで……多分、顔とかにあったら、ヴィルフ並みに差別されて、忌み嫌われてたと思う」

 ヴィルフ並みに、という言葉に、わたしは、冒険者ギルドでヴィルフさんに話しかけられたとき、一気に周りが侮蔑の言葉で騒がしくなったことを思い出していた。

「ボクの両親は、すごくいい人だった。トゥージャに比べたら……ううん、比べようとするのもおこがましいくらい醜いボクも、ちゃんと育ててくれた。同じように育てようと、努力してくれてた」

 ボクは恵まれてたはずなんだよ、とフィジャが言った。
 彼はまだ顔を覆ったままで、表情は見えない。でも、声は酷く震えていて。
 本当に心から幸運を喜んでいる人の声には聞こえなかった。

「でも、両親の、ボクに向ける笑顔は、どこかひきつってたんだ。特に母さんは嘘をつくのが苦手な人だったから、子供のボクでも一発で分かるんだ。ああ、作った笑顔だなって」

 それで、耐えられなくなって剥がしちゃったんだ。
 フィジャがそう言って、わたしは耳を疑った。
 えっ、鱗を? 鱗を剥がしたの?

 フィジャの鱗は見た感じ、そう簡単にはがれそうには見えない。わたしからすれば、爪のような物だと勝手に思っていた。それくらいしっかりしているものに見えるのだ。
 触ったことがないから分からないが、魚の鱗の様に簡単にとれるとは思えない。

「い、痛くないの?」

「痛いよ」

 即答だった。そりゃあそうだ。わたしだって、爪を剥がせと言われたら全力で拒否する。というか、どんな状況でも、「よし、爪を剥がそう!」という思考には至らない。

「痛いから、全部はがれてないんだよ。情けないよね。愛されたくて、鱗の一色でもなくなったらもっとマシになるんじゃないかって思って、無理に剥がして余計に醜くなった」

 ――全部剥がす勇気が未だに出ないんだ。
 そう、消えるような声でフィジャは言った。
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