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第二部
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「それじゃあ、わたしはリビングにいるから。何かあったらすぐ呼んでね」
わたしは空になったお皿とスプーンだけを持って椅子から立ち上がる。水差しとコップはいつでもフィジャが飲めるように、枕元に置いておこう。
わたしがいない方が休めるかな、と思って、フィジャが薬を飲むのを見届けたら部屋を出ていこうと思ったのだが、フィジャにスカートの裾を引っ張られた。
「……ボクが寝るまで、ここにいて、何か話して欲しい」
駄目? と言わんばかりのうるんだ目で見上げられる。
「わたしは別に構わないけど、フィジャがしんどくない?」
結構普通に喋れていて、それこそ二日酔いのイナリさんのほうがよっぽど死にそうな声をしていたものだが、熱がある時にぽぺらぺら喋るのも、それはそれで辛いだろう、と思ったのだが。
「昨日の夜、賑やかだったから急にさみしくなったの……かも?」
確かに昨晩は賑やかを通り越して騒がしいくらいの盛り上がりっぷりだったけれども。
しかし、フィジャの口調はなんだか頼りない。風邪で弱っている、というよりは、自分の考えに自信がない感じ。
「こういうとき、甘えたことがないからあんまり分からないんだ、何をしてほしいのか。……でも、今、もうちょっとだけマレーゼと話したいと思ったから……」
「フィジャがいいなら、いくらでもいるよ。何を話してほしい?」
わたしはお皿を持ったまま、椅子に座り直した。安心したように、スッとフィジャの手が、スカートの裾から離れていく。
「……マレーゼは、親に風邪を引いたとき、なにをしてもらってた?」
「わたし? うーん、あんまり覚えてないなあ。これでもかなり丈夫な子だったんだよ」
まあ、先日の骨折で怪我なし、病気なしの健康記録は途絶えてしまったわけだが。
「母さんと父さんの待望の子がわたしだったからね。ちょっと体調を崩すだけですっごく心配されて、二人ともすぐ仕事ほっぽってわたしの世話をしだすから。これは頻繁に体調崩してたら家計がヤバいなって気を使うようになったんだよ」
子供の頃、めちゃくちゃ騒がれて手厚い看病を受けた記憶はなんとなくある。成人した意識のまま子供扱いされるのは本当にしんどくて、六歳七歳くらいまでの記憶は封印されているも同然で、思い出さないように意識していたら、本当に記憶が曖昧になっていった。
それ故に、すごく騒がれた記憶はあれど、具体的に何をされたのかはあんまり覚えていない。
まあ、今世からしても二十年近く前の記憶なんて、強く印象に残っていない限り曖昧なものだ。詳細に過去を思い出せる人なんて、そうそういないだろう。
転生してからは一杯思い出を作ろう、という姿勢ではいるものの、毎日が刺激的で忘れられない日、というのはなかなかに難しい話しである。
「だから――って、大丈夫? やっぱり会話するのしんどい?」
だからわたしの病気のときの甘え方は参考にならないかも、と言おうとフィジャの顔を見てぎょっとする。
すごく辛そうな――落ち込んだような表情をしていたのだ。
わたしは空になったお皿とスプーンだけを持って椅子から立ち上がる。水差しとコップはいつでもフィジャが飲めるように、枕元に置いておこう。
わたしがいない方が休めるかな、と思って、フィジャが薬を飲むのを見届けたら部屋を出ていこうと思ったのだが、フィジャにスカートの裾を引っ張られた。
「……ボクが寝るまで、ここにいて、何か話して欲しい」
駄目? と言わんばかりのうるんだ目で見上げられる。
「わたしは別に構わないけど、フィジャがしんどくない?」
結構普通に喋れていて、それこそ二日酔いのイナリさんのほうがよっぽど死にそうな声をしていたものだが、熱がある時にぽぺらぺら喋るのも、それはそれで辛いだろう、と思ったのだが。
「昨日の夜、賑やかだったから急にさみしくなったの……かも?」
確かに昨晩は賑やかを通り越して騒がしいくらいの盛り上がりっぷりだったけれども。
しかし、フィジャの口調はなんだか頼りない。風邪で弱っている、というよりは、自分の考えに自信がない感じ。
「こういうとき、甘えたことがないからあんまり分からないんだ、何をしてほしいのか。……でも、今、もうちょっとだけマレーゼと話したいと思ったから……」
「フィジャがいいなら、いくらでもいるよ。何を話してほしい?」
わたしはお皿を持ったまま、椅子に座り直した。安心したように、スッとフィジャの手が、スカートの裾から離れていく。
「……マレーゼは、親に風邪を引いたとき、なにをしてもらってた?」
「わたし? うーん、あんまり覚えてないなあ。これでもかなり丈夫な子だったんだよ」
まあ、先日の骨折で怪我なし、病気なしの健康記録は途絶えてしまったわけだが。
「母さんと父さんの待望の子がわたしだったからね。ちょっと体調を崩すだけですっごく心配されて、二人ともすぐ仕事ほっぽってわたしの世話をしだすから。これは頻繁に体調崩してたら家計がヤバいなって気を使うようになったんだよ」
子供の頃、めちゃくちゃ騒がれて手厚い看病を受けた記憶はなんとなくある。成人した意識のまま子供扱いされるのは本当にしんどくて、六歳七歳くらいまでの記憶は封印されているも同然で、思い出さないように意識していたら、本当に記憶が曖昧になっていった。
それ故に、すごく騒がれた記憶はあれど、具体的に何をされたのかはあんまり覚えていない。
まあ、今世からしても二十年近く前の記憶なんて、強く印象に残っていない限り曖昧なものだ。詳細に過去を思い出せる人なんて、そうそういないだろう。
転生してからは一杯思い出を作ろう、という姿勢ではいるものの、毎日が刺激的で忘れられない日、というのはなかなかに難しい話しである。
「だから――って、大丈夫? やっぱり会話するのしんどい?」
だからわたしの病気のときの甘え方は参考にならないかも、と言おうとフィジャの顔を見てぎょっとする。
すごく辛そうな――落ち込んだような表情をしていたのだ。
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