20 / 452
第一部
20
しおりを挟む
店員さんから四人分の簡易包装されたチョーカーの入った紙袋を受け取り、わたしは待合用のソファに腰かけた。
がさり、と紙袋の中を覗くと、箱が四つ。この中に、夫婦であることを証明するチョーカーが入っているのだと思うと、急に緊張してきた。
魔法付与、やってしまおうか、とナチュラルに手を伸ばし、慌ててひっこめた。
シーバイズとは違って絶対に目立ってしまう。シーバイズでも、町中でやっていたら、あれもこれもと頼まれるので、ある意味控えた方がいいのだが、フィンネルでは悪目立ち……というか、あからさまに異物扱いされるだろう。千年後のここではロストテクノロジーらしいし。
いや、でも、ウィルフさんを連れ戻す時に、人前で使ってしまったな……。面倒くさくなって使ってしまったが、今後、簡単に使うのはやめた方が得策だろう。次から気を付けよう、と心に深く刻み込む。
それにしても、待っている間に魔法付与をしてしまおうと思っていたので、すっかり手持無沙汰になってしまった。前世だったらスマホをいじったし、シーバイズなら魔法の練習でもしたんだけど。
仕方がないので、わたしは窓の外を眺める。
全体的におとぎ話に出てくるような建築模様と、行きかう獣人たちが「ここは異世界である」と主張してくるけれど、それさえなければただ外国へ旅行にきた気分になる。
ぼけ、と外を眺めていると、ばちり、と通行人と目があった。どこかで見たことがあるような――うわ、やば、ウィルフさんを探しに行ったとき、冒険者ギルドで絡まれた猿獣人だ。
わたしはスッと立ち上がり、いかにも「気が付いていませんが?」という風を装って、そそくさとイエリオさんたちのところへ戻った。いや、もう絡まれたくねえし。
「決まりました?」
後ろから話しかけると、ウィルフさん以外の三人がびくりと大げさに肩を揺らした。ウィルフさんはその見た目通り、聴力も獣に近いのか、わたしの接近に気が付いていたようだ。三人がアクセサリー選びに夢中になる中、ウィルフさんだけは積極的ではなかった、というわけではないと思う。多分、多分ね。
「も、もー、驚かせないでよ」
若干挙動不審めに言うのはフィジャだ。うーん、思ったより驚かせてしまったらしい。びっくりさせるつもりはなかったんだけど、悪いことしたかな……。
「やっぱり首輪以外となるとデザインの種類が……」
イエリオさんの言葉に、ショーケースを覗いてみる。……ネックレス、二種類しかない! 銀のチェーンのみのものと、パールっぽいものが連なったネックレス。後者は前世で母が葬式に出席する際に使っていたものを彷彿とさせる。
ネックレスも人気っていうの、嘘だったんだろうな……。まあ、わたしがドン引いてれば嘘をついて誤魔化す他なかったんだろう。
「もうこっちでいいんじゃない」
ト、とショーケースを叩くイナリさんの指の先には、銀チェーンのネックレス。うーん、まあ確かにその二択なら、わたしはそっちのが好きかな。
しかし、それに反対の声をあげたのはフィジャだ。
「え~、折角送るならちゃんとした奴がいい!」
フィジャの不満そうな声に、彼らのやりとりを見ていた店員が声をかける。
「よろしければ、オーダーメイドも承っておりますよ。数日お時間をいただくことになりますが……」
「それ、それにしよ!」
フィジャがぱっと表情を明るくして、店員の提案に食いついた。オーダーメイドとか、絶対高いやつなのでは……?
しかし、残りの三人も、特に反対する様子もなく、あれこれ店員に要望を出して、あっさりとオーダーメイドの注文を済ませてしまった。
「いいんですか?」
わたしが思わず聞いてしまうと、「気にしなくて大丈夫です」とイエリオさんに笑われてしまった。うーん、男のプライドとか、そういうのもあるんだろうか。贈り物の値段とか、見栄を張りたくなってしまうのか?
ともあれ、わたしのネックレスは後日受け取りとなり、このまま帰路に着くのかと思ったが――店に出たとたん、「では、次に行きましょう」とイエリオさんが言った。
「次、ですか……?」
装飾品を送りあうだけじゃないの? と不思議に思ったのだが、イエリオさんの次の言葉にそんな疑問は吹っ飛んだ。
「新しい家、探しに行きましょうか。あそこはウィルフの単身用の貸し部屋ですから。五人で住むには狭いでしょう?」
ああ、なるほど、確かにそうだ。
がさり、と紙袋の中を覗くと、箱が四つ。この中に、夫婦であることを証明するチョーカーが入っているのだと思うと、急に緊張してきた。
魔法付与、やってしまおうか、とナチュラルに手を伸ばし、慌ててひっこめた。
シーバイズとは違って絶対に目立ってしまう。シーバイズでも、町中でやっていたら、あれもこれもと頼まれるので、ある意味控えた方がいいのだが、フィンネルでは悪目立ち……というか、あからさまに異物扱いされるだろう。千年後のここではロストテクノロジーらしいし。
いや、でも、ウィルフさんを連れ戻す時に、人前で使ってしまったな……。面倒くさくなって使ってしまったが、今後、簡単に使うのはやめた方が得策だろう。次から気を付けよう、と心に深く刻み込む。
それにしても、待っている間に魔法付与をしてしまおうと思っていたので、すっかり手持無沙汰になってしまった。前世だったらスマホをいじったし、シーバイズなら魔法の練習でもしたんだけど。
仕方がないので、わたしは窓の外を眺める。
全体的におとぎ話に出てくるような建築模様と、行きかう獣人たちが「ここは異世界である」と主張してくるけれど、それさえなければただ外国へ旅行にきた気分になる。
ぼけ、と外を眺めていると、ばちり、と通行人と目があった。どこかで見たことがあるような――うわ、やば、ウィルフさんを探しに行ったとき、冒険者ギルドで絡まれた猿獣人だ。
わたしはスッと立ち上がり、いかにも「気が付いていませんが?」という風を装って、そそくさとイエリオさんたちのところへ戻った。いや、もう絡まれたくねえし。
「決まりました?」
後ろから話しかけると、ウィルフさん以外の三人がびくりと大げさに肩を揺らした。ウィルフさんはその見た目通り、聴力も獣に近いのか、わたしの接近に気が付いていたようだ。三人がアクセサリー選びに夢中になる中、ウィルフさんだけは積極的ではなかった、というわけではないと思う。多分、多分ね。
「も、もー、驚かせないでよ」
若干挙動不審めに言うのはフィジャだ。うーん、思ったより驚かせてしまったらしい。びっくりさせるつもりはなかったんだけど、悪いことしたかな……。
「やっぱり首輪以外となるとデザインの種類が……」
イエリオさんの言葉に、ショーケースを覗いてみる。……ネックレス、二種類しかない! 銀のチェーンのみのものと、パールっぽいものが連なったネックレス。後者は前世で母が葬式に出席する際に使っていたものを彷彿とさせる。
ネックレスも人気っていうの、嘘だったんだろうな……。まあ、わたしがドン引いてれば嘘をついて誤魔化す他なかったんだろう。
「もうこっちでいいんじゃない」
ト、とショーケースを叩くイナリさんの指の先には、銀チェーンのネックレス。うーん、まあ確かにその二択なら、わたしはそっちのが好きかな。
しかし、それに反対の声をあげたのはフィジャだ。
「え~、折角送るならちゃんとした奴がいい!」
フィジャの不満そうな声に、彼らのやりとりを見ていた店員が声をかける。
「よろしければ、オーダーメイドも承っておりますよ。数日お時間をいただくことになりますが……」
「それ、それにしよ!」
フィジャがぱっと表情を明るくして、店員の提案に食いついた。オーダーメイドとか、絶対高いやつなのでは……?
しかし、残りの三人も、特に反対する様子もなく、あれこれ店員に要望を出して、あっさりとオーダーメイドの注文を済ませてしまった。
「いいんですか?」
わたしが思わず聞いてしまうと、「気にしなくて大丈夫です」とイエリオさんに笑われてしまった。うーん、男のプライドとか、そういうのもあるんだろうか。贈り物の値段とか、見栄を張りたくなってしまうのか?
ともあれ、わたしのネックレスは後日受け取りとなり、このまま帰路に着くのかと思ったが――店に出たとたん、「では、次に行きましょう」とイエリオさんが言った。
「次、ですか……?」
装飾品を送りあうだけじゃないの? と不思議に思ったのだが、イエリオさんの次の言葉にそんな疑問は吹っ飛んだ。
「新しい家、探しに行きましょうか。あそこはウィルフの単身用の貸し部屋ですから。五人で住むには狭いでしょう?」
ああ、なるほど、確かにそうだ。
10
お気に入りに追加
612
あなたにおすすめの小説
転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです
狼蝶
恋愛
転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?
学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
美醜逆転の異世界で私は恋をする
抹茶入りココア
恋愛
気が付いたら私は森の中にいた。その森の中で頭に犬っぽい耳がある美青年と出会う。
私は美醜逆転していて女性の数が少ないという異世界に来てしまったみたいだ。
そこで出会う人達に大事にされながらその世界で私は恋をする。
男女比が偏っている異世界に転移して逆ハーレムを築いた、その後の話
やなぎ怜
恋愛
花嫁探しのために異世界から集団で拉致されてきた少女たちのひとりであるユーリ。それがハルの妻である。色々あって学生結婚し、ハルより年上のユーリはすでに学園を卒業している。この世界は著しく男女比が偏っているから、ユーリには他にも夫がいる。ならば負けないようにストレートに好意を示すべきだが、スラム育ちで口が悪いハルは素直な感情表現を苦手としており、そのことをもどかしく思っていた。そんな中でも、妊娠適正年齢の始まりとして定められている二〇歳の誕生日――有り体に言ってしまえば「子作り解禁日」をユーリが迎える日は近づく。それとは別に、ユーリたち拉致被害者が元の世界に帰れるかもしれないという噂も立ち……。
順風満帆に見えた一家に、ささやかな波風が立つ二日間のお話。
※作品の性質上、露骨に性的な話題が出てきます。
気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。
sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。
気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。
※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。
!直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。
※小説家になろうさんでも投稿しています。
異世界の美醜と私の認識について
佐藤 ちな
恋愛
ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。
そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。
そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。
不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!
美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。
* 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける
朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。
お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン
絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。
「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」
「えっ!? ええぇぇえええ!!!」
この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる