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第二部
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翌日、イエリオさんが持ってきたのは、大きな段ボールを三つだった。ごろごろと台車に乗っけてやってきたのである。
「ちょっと、イエリオ! なにその量!」
出勤支度をしていたフィジャが、その台車を見て怒っていた。
わたしもまさかの量にびっくりである。
「こちら、シーバイズ語で書かれた文献のコピーです。今現在、確認されているもの全てを持ってきました」
イエリオさんはしれっと笑いながら説明してくれた。にこにこと人の良さそうな笑みを浮かべているが、その実なかなかにやっていることがえぐい。
今ある文献の全て……と考えれば少ない方かもしれないが、暇つぶしにさばくような量ではない。
「ご安心ください、別に一日二日でやる量じゃありません。二週間ほど、私がこちらにお邪魔して、文献を読み上げていただければ書とめますので。日中の世話はフィジャに代わり、私が務めます。喋るのはつらくないんでしょう?」
「うーん、まあ、そうですけど……」
普通に喋る分にはしんどくない。大笑いしたり、くしゃみや咳をすると「痛てて」とはなるけど。後は前かがみになるのが結構辛い。姿勢よく勉強出来たら一番だけど、どうしても前かがみになってしまうというか……。
背もたれを全力で使ってソファに座り、会話をするくらいならそこまで大変でもない。
わたしの中では「まあいいかな」という気分になっているのだが、フィジャはそうではないらしく、ぷんぷんと怒っている。
「ちょっと、勝手に話進めないでよ! ていうかここボクの家!」
「では毎回、研究所まで通わせると? 結構な距離がありますよ」
流石にそれは気が咎めるらしい。フィジャは悔しそうに黙ってしまった。
折角心配してくれているのに、ここでイエリオさんの味方になるのもおかしな話だろうか。フィジャはわたしの為に怒ってくれているのだから。
どうこの場を収めたものか、と悩んでいると、先にフィジャが折れたようだった。
「……マレーゼに絶対無理させないでよ!? イエリオのペースに合わせてご飯抜きとか駄目だからね、許さないからね! あと二週間来るのは勝手だけど、泊まらせないから」
「そこまで我儘言いませんよ。本当に、無理そうならやめさせますから」
やめる、ではなく、やめさせる、という言い方で、ちょっとフィジャは納得したらしい。あくまで主体はわたし、というのが分かったんだろう。
「……ボク、これから仕事に行くから。マレーゼのことよろしくね。昼ご飯は温めるだけにしてあるから。……絶対無理させないでよ、絶対だからね!」
何度もしつこく『絶対』を繰り返しながら、フィジャは仕事へと向かって言った。
その様子を見送り、イエリオはわたしへと向き直る。
「それでは始めましょうか。ソファとベッド、どちらがよろしいですか?」
「お、お手柔らかに……。とりあえず、ソファで大丈夫です」
ちょっと不安を感じながらも、わたしはリビングへと戻るのだった。
「ちょっと、イエリオ! なにその量!」
出勤支度をしていたフィジャが、その台車を見て怒っていた。
わたしもまさかの量にびっくりである。
「こちら、シーバイズ語で書かれた文献のコピーです。今現在、確認されているもの全てを持ってきました」
イエリオさんはしれっと笑いながら説明してくれた。にこにこと人の良さそうな笑みを浮かべているが、その実なかなかにやっていることがえぐい。
今ある文献の全て……と考えれば少ない方かもしれないが、暇つぶしにさばくような量ではない。
「ご安心ください、別に一日二日でやる量じゃありません。二週間ほど、私がこちらにお邪魔して、文献を読み上げていただければ書とめますので。日中の世話はフィジャに代わり、私が務めます。喋るのはつらくないんでしょう?」
「うーん、まあ、そうですけど……」
普通に喋る分にはしんどくない。大笑いしたり、くしゃみや咳をすると「痛てて」とはなるけど。後は前かがみになるのが結構辛い。姿勢よく勉強出来たら一番だけど、どうしても前かがみになってしまうというか……。
背もたれを全力で使ってソファに座り、会話をするくらいならそこまで大変でもない。
わたしの中では「まあいいかな」という気分になっているのだが、フィジャはそうではないらしく、ぷんぷんと怒っている。
「ちょっと、勝手に話進めないでよ! ていうかここボクの家!」
「では毎回、研究所まで通わせると? 結構な距離がありますよ」
流石にそれは気が咎めるらしい。フィジャは悔しそうに黙ってしまった。
折角心配してくれているのに、ここでイエリオさんの味方になるのもおかしな話だろうか。フィジャはわたしの為に怒ってくれているのだから。
どうこの場を収めたものか、と悩んでいると、先にフィジャが折れたようだった。
「……マレーゼに絶対無理させないでよ!? イエリオのペースに合わせてご飯抜きとか駄目だからね、許さないからね! あと二週間来るのは勝手だけど、泊まらせないから」
「そこまで我儘言いませんよ。本当に、無理そうならやめさせますから」
やめる、ではなく、やめさせる、という言い方で、ちょっとフィジャは納得したらしい。あくまで主体はわたし、というのが分かったんだろう。
「……ボク、これから仕事に行くから。マレーゼのことよろしくね。昼ご飯は温めるだけにしてあるから。……絶対無理させないでよ、絶対だからね!」
何度もしつこく『絶対』を繰り返しながら、フィジャは仕事へと向かって言った。
その様子を見送り、イエリオはわたしへと向き直る。
「それでは始めましょうか。ソファとベッド、どちらがよろしいですか?」
「お、お手柔らかに……。とりあえず、ソファで大丈夫です」
ちょっと不安を感じながらも、わたしはリビングへと戻るのだった。
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