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第二部

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「明日からマレーゼはうちにいるんだよね? 暇じゃない? 勉強する本ならボクが借りてくるよ」

 昼ご飯を食べながら、フィジャはそう言った。お言葉に甘えたいところではあるけれど、ちょっと悩ましい。

「勉強したい気持ちはあるけど、今、絶対に集中できないだろうしなあ……」

 確かに、明日からフィジャの家に一人では、絶対に手持無沙汰になるだろう。実際病院でも暇だったし。
 でも、何か知識を詰め込むほどの元気はない。

「シーバイズ語で書かれた本があればいいのに」

 わたしがぽつりとそう呟くと、イエリオさんが目を輝かせた。

「ありますよ、シーバイズ語の本!」

 イエリオさんは目をきらきらとさせているが、フィジャは顔をしかめた。

「それイエリオの仕事の奴じゃん。マレーゼは怪我人なんだから、そんなことさせないでよ」

 むすっとした表情でフィジャが言う。仕事、とは?
 不思議に思っていたのが顔に出ていたのか、フィジャが「イエリオの仕事は前文明の研究だよ」と教えてくれた。
 なんでも、『魔法』という便利な技術があった文明を研究して、現代に蘇らせたり、現代の技術と合わせてより便利な生活を送れるようにしたり、という目標のもと、前文明の研究をしているのが、イエリオさんらしい。そういう研究所があるんだそうだ。
 前文明好きは趣味の範囲を超えていたのか……。

「私たちは皆、共用語を使っていますから。他言語を学ぶ、という機会も発想もなくて、シーバイズ語を始めとした前文明の言語の研究が遅れていまして……。勿論、怪我の具合もありますから、無理にとはいいませんが」

 ううん、まあ暇になりそうではあるけれど、怪我であまり調子が良くないのは事実だ。
 でも、言語の研究が遅れている、って、研究を仕事にしているなら、なかなか大変なことじゃないだろうか。だって、数少ない文明の記録なわけでしょ? 文明の記録なんて、皆、文字で書かれているだろうに。

「うーん、多分そんなに読み進めるペースは早くないですけど、それでもいいなら……。わたしの調子がいいときの暇つぶしくらいの気持ちでいますから、あんまり期待しないでいただけるのであれば」

 フィジャの気遣いは嬉しいけれど、ぼけーっとしているのもそれはそれで苦痛なのだ。積極的に家事をするくらいの元気もないし、ソファなりベッドなり、ゆったり座って文字を追うくらいが丁度いいように思う。

「えー、大丈夫?」

 案の定、不満そうな声で心配してくれる、フィジャ。

「大丈夫よ、心配してくれてありがとう」

 そう言えば、少し拗ねたのか、照れたのか、ちょっと判断が難しくはあるけれど、頬をほんのり赤くして、ぷい、とそっぽを向かれてしまった。
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