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第二部

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 キッチンに二人で並んで料理を作る。とはいえ、わたしはフィンネルの料理が分かるわけではないので、あくまで補助的な立ち位置だ。それにプロが作った方が絶対おいしいものが出来上がるしな……。
 フィンネル国では主に麺料理が食べられているようで、日本でいう米のように、大体の主食がパスタらしい。パスタとサラダ、それにスープをあわせる、というのが一般的なランチスタイルのようだ。

 イナリさんが夕飯にパンを選んでいたし、てっきり小麦粉文化なのかと思っていたが、イナリさんは特殊ケースらしい。一昨日の夕飯の話をしたら「また手抜きして!」とぷんすこしていた。まあ、日本とシーバイズという、二つの国を経由してきたわたしにも、あれは手抜きだと分かるけれど。あれが手抜きじゃなかったら、フィンネル国の食文化に絶望していたところだ。

「マレーゼは料理できるの?」

 わたしの包丁を持つ手が危なっかしくないからか、フィジャに聞かれる。わたしの担当はサラダなのだが、いや、そりゃあいくら料理自慢じゃないとはいえ、トマトを切るくらいはできますって。……いや、これがトマトなのかちょっと微妙だけど、一番近い野菜は間違いなくトマトだろうし、言語増加〈イースリメス〉もそう翻訳しているからきっとトマト。なんかちょっと見た目が違う気もするけど、トマトとする。

「まあ、多少は? プロのフィジャよりはできないだろうけど、普通に食べられるものを作ることはできるよ」

「そうなんだ。じゃあ安心かな。ボク以外、みんな料理できないし。料理担当はボクとマレーゼで折半だね」

 イナリさんは料理しないことがなんとなくわかっていたが、イエリオさんとウィルフさんもダメだったか。まあ、あの二人が料理するところは、あんまり想像できない。

「おいしいものができるように頑張る」

「あはは、食べられるものを作れる時点で十分だよ」

 うーん、フィジャにそう言われてしまうとは、あの三人の腕前はどんだけ酷いんだろう。というより、イエリオさんはともかく、イナリさんとウィルフさんはあんまり味に頓着しないタイプに見える。イナリさんは味がなくてもいいって感じっぽいし、ウィルフさんに至っては、安全に食べられればそれでいいっていう極端なタイプに見える。完全に偏見だけどね。あんまり遠からず、ってところはあると思うけど。イナリさんは味つけしてない丸パンをそのまま平然とした顔で食べてたし。

「でも、シーバイズの料理が作れるなら、イエリオが騒ぎそうだなー。再現料理をぜひ! って」

「あー、確かに」

 目を輝かせながら言う姿が簡単に想像できる。
 とはいえ……。

「ちょっと難しいと思うけどね」

 シーバイズの料理に欠かせないのが、シオイモとエンエンマメである。両方とも海水で育つ変わった植物で、味付けをしなくとも塩の味がすでについている芋と豆だ。
 シーバイズ料理、と言われるものには必ず入っているもので、わたしもシーバイズ人になってから毎日食べていた。シーバイズ人にはとりあえずシオイモとエンエンマメさえ与えておけば何とかなる、とまで言われるソウルフードだ。
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