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第二部
回顧
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兄のトゥージャが笑うと、周りの皆も笑顔になる。
トゥージャは格好よくて、人気者だった。蛇種の特徴である鱗は背中からわき腹にかけてびっちり生えているけれど、色味は薄いオレンジ色で肌の色に近いし、なにより均一だ。服で隠れてしまうのもまた、好印象に違いない。鱗の色も均一なのに、髪の毛も赤一色で、ボクからしたら、うらやましいことこの上ない。
ボクの髪は赤とオレンジのまだら。鱗も顔や腕と言った目立つところにある上に、髪の毛みたいに赤とオレンジが入り乱れている。服で隠せるけど、太ももにある鱗なんて、赤とオレンジだけじゃなく黒色も混ざっていて、不細工でしょうがない。
三色の鱗は、まだら模様の蛇種の中でも一等嫌われるもので、せめて数枚の黒い鱗だけでも何とか剥がせないかと奮闘したこともあった。あまりの痛さに、一枚で諦めたけど。その剥がした跡もまた、不格好でコンプレックスを強くするだけだった。
それでも両親はボクを見捨てないでくれた。極端に見た目の出来が悪いと、気味悪がられて捨てられることも珍しくないのに。いくら我が子だろうと、三色の鱗持ちを育てるのは大変だったろうな、と今でも思う。
そんな両親を、ボクも笑顔にさせたくて、いろいろと努力したものだ。そして――その努力は、実を結んだ。
「フィジャの作るごはんはおいしいね」
少し困ったようないつもの笑みではなく、心からの笑顔。
こんなボクでも、両親を笑顔にすることが出来るんだとうれしかったし、誇らしかった。だから、ボクはこの道を究めようと思ったし、両親がボクの料理で笑ってくれたその日から、ボクの夢は料理人になった。
一流の料理人になって、いつか自分の店を持って。一緒にお店をやってくれるお嫁さんがいたら最高だけど、まあボクの見た目じゃ無理だろうな、なんて思いながらも、仲間と一緒に店という城を作り上げて、祝集祭のときに両親をボクの店に招待するのが、夢であり目標だった。
ボクの作ったパスタをおいしそうに頬張る母が、目の前にいた。にこにことそれを食し、食べ終わった後に幸せそうなため息を吐くと、母は口を開く。
「フィジャ、お母さん、次はアレが食べたいな」
アレ、アレよ、とすぐに料理名が出てこないのであろう母は、「アレ」を繰り返すばかり。「アレじゃあ分からないよ」と言おうとして、その言葉がなんだか霧散してしまったことに気が付いた。
意識がぼんやりしている。そういえば、前にもこんなことあったような……いや、母が料理名をすんなり出せないのはいつものことだけど。でも、だって、成人してしばらく経つし、前回の祝集祭は四年近く前だ。
今、目の前に母がいるわけない。
あ、これ……夢だ。
そう気が付くと、一気に意識はぐちゃぐちゃになる。夢の中では落ちていくような、現実世界では浮上するような、境界線が曖昧になる、不思議な感覚。もう一度、寝ることに意識を傾ければ、夢の続きが見れそうな気がしたけれど、ドアのノック音と、「ごめんください」というマレーゼの声に、目が覚めた。
「え、う、嘘、もうそんな時間!?」
時計を見れば、後少しで、約束の十時だった。まさか寝過ごすなんて……!
部屋はある程度、昨日の時点で片づけたけど、思い切り寝起きなのだ。顔も洗っていないし、着替えてもいない。
「ま、待って! ちょっと、十分……いや、五分待って!」
ボクは叫びながら、慌ててベッドを飛び出した。
トゥージャは格好よくて、人気者だった。蛇種の特徴である鱗は背中からわき腹にかけてびっちり生えているけれど、色味は薄いオレンジ色で肌の色に近いし、なにより均一だ。服で隠れてしまうのもまた、好印象に違いない。鱗の色も均一なのに、髪の毛も赤一色で、ボクからしたら、うらやましいことこの上ない。
ボクの髪は赤とオレンジのまだら。鱗も顔や腕と言った目立つところにある上に、髪の毛みたいに赤とオレンジが入り乱れている。服で隠せるけど、太ももにある鱗なんて、赤とオレンジだけじゃなく黒色も混ざっていて、不細工でしょうがない。
三色の鱗は、まだら模様の蛇種の中でも一等嫌われるもので、せめて数枚の黒い鱗だけでも何とか剥がせないかと奮闘したこともあった。あまりの痛さに、一枚で諦めたけど。その剥がした跡もまた、不格好でコンプレックスを強くするだけだった。
それでも両親はボクを見捨てないでくれた。極端に見た目の出来が悪いと、気味悪がられて捨てられることも珍しくないのに。いくら我が子だろうと、三色の鱗持ちを育てるのは大変だったろうな、と今でも思う。
そんな両親を、ボクも笑顔にさせたくて、いろいろと努力したものだ。そして――その努力は、実を結んだ。
「フィジャの作るごはんはおいしいね」
少し困ったようないつもの笑みではなく、心からの笑顔。
こんなボクでも、両親を笑顔にすることが出来るんだとうれしかったし、誇らしかった。だから、ボクはこの道を究めようと思ったし、両親がボクの料理で笑ってくれたその日から、ボクの夢は料理人になった。
一流の料理人になって、いつか自分の店を持って。一緒にお店をやってくれるお嫁さんがいたら最高だけど、まあボクの見た目じゃ無理だろうな、なんて思いながらも、仲間と一緒に店という城を作り上げて、祝集祭のときに両親をボクの店に招待するのが、夢であり目標だった。
ボクの作ったパスタをおいしそうに頬張る母が、目の前にいた。にこにことそれを食し、食べ終わった後に幸せそうなため息を吐くと、母は口を開く。
「フィジャ、お母さん、次はアレが食べたいな」
アレ、アレよ、とすぐに料理名が出てこないのであろう母は、「アレ」を繰り返すばかり。「アレじゃあ分からないよ」と言おうとして、その言葉がなんだか霧散してしまったことに気が付いた。
意識がぼんやりしている。そういえば、前にもこんなことあったような……いや、母が料理名をすんなり出せないのはいつものことだけど。でも、だって、成人してしばらく経つし、前回の祝集祭は四年近く前だ。
今、目の前に母がいるわけない。
あ、これ……夢だ。
そう気が付くと、一気に意識はぐちゃぐちゃになる。夢の中では落ちていくような、現実世界では浮上するような、境界線が曖昧になる、不思議な感覚。もう一度、寝ることに意識を傾ければ、夢の続きが見れそうな気がしたけれど、ドアのノック音と、「ごめんください」というマレーゼの声に、目が覚めた。
「え、う、嘘、もうそんな時間!?」
時計を見れば、後少しで、約束の十時だった。まさか寝過ごすなんて……!
部屋はある程度、昨日の時点で片づけたけど、思い切り寝起きなのだ。顔も洗っていないし、着替えてもいない。
「ま、待って! ちょっと、十分……いや、五分待って!」
ボクは叫びながら、慌ててベッドを飛び出した。
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