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 わたしたちは、再びエステローヒへと来ていた。わたしとアルベルト、そしてネッシェの三人である。ウィルエールも来たがっていたが、彼が来てしまうと、さらに新店舗への移転が遅れてしまうので、ここはおとなしくランスベルヒに残ってもらうことにした。
 エステローヒのギルドにたどり着くと、ちょうどテリーベルが依頼書が貼られている掲示板の前に立っているのが見えた。

「テリーベル!」

 わたしが声をかけると、テリーベルはパッと笑顔を浮かべたが、すぐに、うげ、とでも言いたそうな表情に歪んだ。ネッシェに気が付いたようだ。

「フィオディーナさん、久しぶり。それはそれとして、アンタなんの用なわけ? アタシ、小箱は埋めなおしたって言ったわよね」

 うんざりとした顔のテリーベル。わたしの店で暴れたように、ネッシェは彼女にも粘着質に声をかけたのだろうか。

「ほかの二人は?」

「ダリスは休息日で遊びに行ってる。ファルドはパーティーを正式に決めて、エステローヒを出て行ったわよ。今頃タンゼンガードについてるんじゃない?」

 タンゼンガード。知らない名前だ。近くの街か何かだろうか。
 教えてくれるかな、とアルベルトを見たのも一瞬。「そいつが小箱を盗って逃げたんでしょう!」というネッシェの叫びに、わたしの視線は思わずそちらを向いた。
 わたしはびっくりして固まってしまったが、テリーベルは怒鳴る男性に慣れているのか、ネッシェに負けない声量で声を張る。

「うるさいわね! ファルドも知らないって言ってたでしょ! ファルドがここを出る前に聞いたでしょうが!」

 今にも噛みつきそうなテリーベル。
 ギルドはざわざわとしていて、わたしたちに視線を送っているのが分かる。騒ぎになってしまった。どうしよう。
 思わずアルベルトの服の裾を引っ張ると、彼はパン、と手を叩いた。

「ほら、騒がない。周りの注目になってるぞ」

 その言葉でテリーベルは少し冷静になったのか、ぐっと黙った。

「それより、依頼書に小箱のことは書いてあったのか?」

「……書いてなかったわよ。書いてあったら今頃こんな騒いでないわ。気になるなら受付で確認してくれば? まだ処分してないでしょ、依頼書」

 そう言ってテリーベルは受付を指さした。

「そうだな、そうする」

 アルベルトは受付へと向かう。ここに取り残されるのも嫌で、わたしは彼の後を追った。

「依頼書に書いていないならあの男が悪いな」

「え?」

 アルベルト曰く、壊さないでほしいものや使われたり持っていかれたりしたら困るものは依頼書に明記しておくものなのだという。もしそれに書いてあったものを冒険者が壊してしまったなら、冒険者の責任になり、弁償しなければならないらしい。
 逆に依頼書に書いていないものを破損させたり持って行ったりしても、冒険者側の責任ではなく、依頼者側が書かなかった自己責任、となるそうだ。まあ、これはなんでもありというわけではなく、あくまで一般常識の範囲での話らしいが。
 今回のように、それほどまでに小箱を取られたら困るのであれば、依頼書に描くべきだったとアルベルトは言う。
 でも、彼の様子を見るに、隠し通したかったものなんだろう、あの小箱は。存在すら知られずに依頼がこなされることを願っていたはずだ。
 どうなってしまうのだろうか、と思いながら、ギルドの受付嬢とやりとりするアルベルトの横顔を、わたしは見た。
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