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わたしに伸びるネッシェの手を掴んだのは、アルベルトだった。強く握っているのか、ネッシェが苦しそうに顔を歪める。
「っ、離してください! 俺は悪くない、小箱を奪った彼女が悪いんです!」
「……小箱?」
ネッシェの腕を掴んだまま、アルベルトは視線をこちらに向ける。わたしは知らない、と首を横に振った。
「エステローヒの依頼で、彼の畑に来るスレムルムを退治したでしょう? その畑にあった小箱がなくなったらしいのだけど、わたし、知らないわ」
「そんなはずないです!」
ネッシェは叫ぶ。決めつけによる叫びだが、切羽詰まった様子だ。
「他の冒険者に確認は?」
「とったって言ったでしょう!」
それはわたしに言った言葉でアルベルトに言ったものじゃない。けれど、そう彼に伝えることはできなかった。ここまで錯乱した人間に、何か言うのは怖かった。下手に刺激しない方がいいだろう。
「でもフィーにばかり突っかかっても解決しない。ギルドを通して捜索の依頼でも出したらどうだ」
「そんなこと……! お前らが隠しているだけなら、今出してくれれば済む話でしょう!」
これはダメだ、という顔でアルベルトは首を横に振った。完全に話が通じる相手じゃない。
アルベルトはため息を吐き、ネッシェの腕をひねり上げた。
「とにかく、もう一度エステローヒに行った方がよさそうだな。あの三人とも確認する。誰かが持ち去ったなら、そいつが責任を取るべきだ。だから、フィーには手をあげるな」
ネッシェが苦しそうにうめく。そのままネッシェの肩をがぽっと外してしまいそうなアルベルトに、わたしは声をかけた。
「あの、アルベルト、流石にそこまでは……」
「フィー」
アルベルトはネッシェを突き飛ばし、バン、とカウンターを叩いた。上から見下ろすアルベルトに、わたしは気おされて思わずそのまま椅子に座り込んでしまう。
「フィーは女の子だろ。しかも今、乱暴されそうになった。手荒いことをする奴に、情けなんてかけなくていい」
「でも……」
「でもじゃない。ランスベルヒにいる冒険者は、死線をくぐってきた奴らばかりで、馬鹿なことをする奴なんてほとんどいない。でも、世の中の男はそうじゃない。現に今だって俺が来てなかったらどうなってた?」
そう言われると、なにも反論できなくなってしまう。
「フィー、俺はお前が心配なんだ」
「アルベルト……」
わたしが反論する気を失ったのを察したのかアルベルトは再びネッシェの方へと向かった。
――ばくばくと心臓がせわしなく動くのは、恐怖体験をしたからだと、思いたい。
「っ、離してください! 俺は悪くない、小箱を奪った彼女が悪いんです!」
「……小箱?」
ネッシェの腕を掴んだまま、アルベルトは視線をこちらに向ける。わたしは知らない、と首を横に振った。
「エステローヒの依頼で、彼の畑に来るスレムルムを退治したでしょう? その畑にあった小箱がなくなったらしいのだけど、わたし、知らないわ」
「そんなはずないです!」
ネッシェは叫ぶ。決めつけによる叫びだが、切羽詰まった様子だ。
「他の冒険者に確認は?」
「とったって言ったでしょう!」
それはわたしに言った言葉でアルベルトに言ったものじゃない。けれど、そう彼に伝えることはできなかった。ここまで錯乱した人間に、何か言うのは怖かった。下手に刺激しない方がいいだろう。
「でもフィーにばかり突っかかっても解決しない。ギルドを通して捜索の依頼でも出したらどうだ」
「そんなこと……! お前らが隠しているだけなら、今出してくれれば済む話でしょう!」
これはダメだ、という顔でアルベルトは首を横に振った。完全に話が通じる相手じゃない。
アルベルトはため息を吐き、ネッシェの腕をひねり上げた。
「とにかく、もう一度エステローヒに行った方がよさそうだな。あの三人とも確認する。誰かが持ち去ったなら、そいつが責任を取るべきだ。だから、フィーには手をあげるな」
ネッシェが苦しそうにうめく。そのままネッシェの肩をがぽっと外してしまいそうなアルベルトに、わたしは声をかけた。
「あの、アルベルト、流石にそこまでは……」
「フィー」
アルベルトはネッシェを突き飛ばし、バン、とカウンターを叩いた。上から見下ろすアルベルトに、わたしは気おされて思わずそのまま椅子に座り込んでしまう。
「フィーは女の子だろ。しかも今、乱暴されそうになった。手荒いことをする奴に、情けなんてかけなくていい」
「でも……」
「でもじゃない。ランスベルヒにいる冒険者は、死線をくぐってきた奴らばかりで、馬鹿なことをする奴なんてほとんどいない。でも、世の中の男はそうじゃない。現に今だって俺が来てなかったらどうなってた?」
そう言われると、なにも反論できなくなってしまう。
「フィー、俺はお前が心配なんだ」
「アルベルト……」
わたしが反論する気を失ったのを察したのかアルベルトは再びネッシェの方へと向かった。
――ばくばくと心臓がせわしなく動くのは、恐怖体験をしたからだと、思いたい。
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