61 / 71
55.6
しおりを挟む
告げられたその言葉に、コウンベールは驚きを隠せなかったが、彼の父であるニストロは平静そのものだ。少し前から、第二王子ではなく、第一王子が継ぐことが決まっていた。
決まったのは、王の許可なく婚約を破棄し、フィオディーナが大海原へと放り出された日。
今回の報告を受け、第一王子とコウンベールの二人に、時代のエンティパイアを任せることを発言したのだ。そして、二人に、国が隠していた真実を語る決断を、した。
「もう少しでアンブロが来る。その時に、全て話そう」
防音の術具を起動させる少し前、クブルフはアンブロを別の術具によって、呼び出していた。
「……王位を継がせない、ではなく、廃嫡なのですか」
普段なら、クブルフの前では、発言の許可なく口を開かないコウンベールが、驚きのあまり発言していた。
クブルフはそれをとがめない。彼の驚きが理解できるからである。
「そうだ。あの愚息には、今回の責任を取らせる」
常々、第一王子と第二王子、どちらが次期大帝王となるのか、貴族の中ではもっぱらの話題だった。なお、第三王子は自ら政治から一歩引いているので、あまり話題にはならない。
来年、第三王子が十五歳で成人する。よって、次期大帝王の候補である三人全員が成人ということになり、来年発表されるからだ。
確かに、発表より一年以上前から決まっていることは、おかしくもない。ただ、こうして発言してしまうことに、コウンベールは驚いていた。
いくら防音の術具を使っているとはいえ、漏れたら一大事である。
なにせ、決定の発表があるまで一年。暗殺の計画が乱立してもおかしくない。
「正直、フィオディーナ嬢の件は、ある意味で賭けだった。あの愚息が、トゥーリカ嬢の方に惹かれているのは知っていたからな」
男として愛する女を取るか、王子として国を取るか。常々、フィオディーナ嬢がお前の婚約者である、というのを言い聞かせていたのは、自分の立場を理解し、欲でなく最善を取れるかという、試練でもあった。
「無論、あいつがフィオディーナ嬢と婚約を破棄したいと、言い出してくることは想定の範囲内だった。婚約破棄を言った時点で、王位をアンブロに譲るつもりだったのだよ」
本当ならば、婚約破棄を許さず、王の全権を持って、結婚させるつもりだった。その準備も、していた。
エンティパイア帝国の未来のため、カルファはフィオディーナと結婚しなければならなかった。いや、より正確に言うのであれば、フィオディーナの伴侶は、彼女が惚れ込んだカルファでなければいけなかった。
しかし、現実はどうだ。
王がことを知る前に、それらしい罪状を並べ、婚約破棄が王の許可なく正式に行われ、フィオディーナは国土追放。
「――あの愚息に婚約破棄を手引きした奴がいるはずだ」
そして、王はその相手に心当たりがあった。それこそが、国の中でも極々一部しか知らない、トップシークレットである。
その相手とつながっているカルファを、王族として城に置いておくことは、断じてできなかった。
――部屋の扉が、ノックされる。
「父上――いえ、大帝王。アンブロです」
第一王子の到着だった。クブルフが入室を許可すると、扉が開かれる。彼は一礼し、部屋へと入る。これから話す内容が内容のため、扉を開けたアンブロの従者は、入室を許されない。
「――そろったか。……アンブロ、コウンベール。お前たちが次代のエンティパイアの担う二人となる。よって、全てを話そうと思う」
エンティパイアでは大帝王と宰相、そしてオヴントーラ公爵家当主のみが知る、隠し続けてきたかつての罪と、ありえる最悪の未来の話を。
決まったのは、王の許可なく婚約を破棄し、フィオディーナが大海原へと放り出された日。
今回の報告を受け、第一王子とコウンベールの二人に、時代のエンティパイアを任せることを発言したのだ。そして、二人に、国が隠していた真実を語る決断を、した。
「もう少しでアンブロが来る。その時に、全て話そう」
防音の術具を起動させる少し前、クブルフはアンブロを別の術具によって、呼び出していた。
「……王位を継がせない、ではなく、廃嫡なのですか」
普段なら、クブルフの前では、発言の許可なく口を開かないコウンベールが、驚きのあまり発言していた。
クブルフはそれをとがめない。彼の驚きが理解できるからである。
「そうだ。あの愚息には、今回の責任を取らせる」
常々、第一王子と第二王子、どちらが次期大帝王となるのか、貴族の中ではもっぱらの話題だった。なお、第三王子は自ら政治から一歩引いているので、あまり話題にはならない。
来年、第三王子が十五歳で成人する。よって、次期大帝王の候補である三人全員が成人ということになり、来年発表されるからだ。
確かに、発表より一年以上前から決まっていることは、おかしくもない。ただ、こうして発言してしまうことに、コウンベールは驚いていた。
いくら防音の術具を使っているとはいえ、漏れたら一大事である。
なにせ、決定の発表があるまで一年。暗殺の計画が乱立してもおかしくない。
「正直、フィオディーナ嬢の件は、ある意味で賭けだった。あの愚息が、トゥーリカ嬢の方に惹かれているのは知っていたからな」
男として愛する女を取るか、王子として国を取るか。常々、フィオディーナ嬢がお前の婚約者である、というのを言い聞かせていたのは、自分の立場を理解し、欲でなく最善を取れるかという、試練でもあった。
「無論、あいつがフィオディーナ嬢と婚約を破棄したいと、言い出してくることは想定の範囲内だった。婚約破棄を言った時点で、王位をアンブロに譲るつもりだったのだよ」
本当ならば、婚約破棄を許さず、王の全権を持って、結婚させるつもりだった。その準備も、していた。
エンティパイア帝国の未来のため、カルファはフィオディーナと結婚しなければならなかった。いや、より正確に言うのであれば、フィオディーナの伴侶は、彼女が惚れ込んだカルファでなければいけなかった。
しかし、現実はどうだ。
王がことを知る前に、それらしい罪状を並べ、婚約破棄が王の許可なく正式に行われ、フィオディーナは国土追放。
「――あの愚息に婚約破棄を手引きした奴がいるはずだ」
そして、王はその相手に心当たりがあった。それこそが、国の中でも極々一部しか知らない、トップシークレットである。
その相手とつながっているカルファを、王族として城に置いておくことは、断じてできなかった。
――部屋の扉が、ノックされる。
「父上――いえ、大帝王。アンブロです」
第一王子の到着だった。クブルフが入室を許可すると、扉が開かれる。彼は一礼し、部屋へと入る。これから話す内容が内容のため、扉を開けたアンブロの従者は、入室を許されない。
「――そろったか。……アンブロ、コウンベール。お前たちが次代のエンティパイアの担う二人となる。よって、全てを話そうと思う」
エンティパイアでは大帝王と宰相、そしてオヴントーラ公爵家当主のみが知る、隠し続けてきたかつての罪と、ありえる最悪の未来の話を。
0
お気に入りに追加
1,470
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました! でもそこはすでに断罪後の世界でした
ひなクラゲ
恋愛
突然ですが私は転生者…
ここは乙女ゲームの世界
そして私は悪役令嬢でした…
出来ればこんな時に思い出したくなかった
だってここは全てが終わった世界…
悪役令嬢が断罪された後の世界なんですもの……
【二部開始】所詮脇役の悪役令嬢は華麗に舞台から去るとしましょう
蓮実 アラタ
恋愛
アルメニア国王子の婚約者だった私は学園の創立記念パーティで突然王子から婚約破棄を告げられる。
王子の隣には銀髪の綺麗な女の子、周りには取り巻き。かのイベント、断罪シーン。
味方はおらず圧倒的不利、絶体絶命。
しかしそんな場面でも私は余裕の笑みで返す。
「承知しました殿下。その話、謹んでお受け致しますわ!」
あくまで笑みを崩さずにそのまま華麗に断罪の舞台から去る私に、唖然とする王子たち。
ここは前世で私がハマっていた乙女ゲームの世界。その中で私は悪役令嬢。
だからなんだ!?婚約破棄?追放?喜んでお受け致しますとも!!
私は王妃なんていう狭苦しいだけの脇役、真っ平御免です!
さっさとこんなやられ役の舞台退場して自分だけの快適な生活を送るんだ!
って張り切って追放されたのに何故か前世の私の推しキャラがお供に着いてきて……!?
※本作は小説家になろうにも掲載しています
二部更新開始しました。不定期更新です
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
【完結】貴方たちはお呼びではありませんわ。攻略いたしません!
宇水涼麻
ファンタジー
アンナリセルはあわてんぼうで死にそうになった。その時、前世を思い出した。
前世でプレーしたゲームに酷似した世界であると感じたアンナリセルは自分自身と推しキャラを守るため、攻略対象者と距離を置くことを願う。
そんな彼女の願いは叶うのか?
毎日朝方更新予定です。
【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!
春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前!
さて、どうやって切り抜けようか?
(全6話で完結)
※一般的なざまぁではありません
※他サイト様にも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる