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ギルドから修理店を移転する、と決まったはいいものの、移転先があまりにも悲惨な状態だったので、すぐに移動できるわけもなく、現在も修理店はギルドにある。
ギルドの修理店にいるのはわたしだけ。ウィルエールは移転先へ掃除と修繕を師に行った。わたしも手伝う、と言ったのだが、「女神にこんなことをさせるわけにはいかない!」と固辞されてしまった。
わたしだってもうこのギルドに来てから結構経つから、力仕事も、貴族時代に比べて苦じゃない。しかも、わたしの店なのだ。ウィルエールが主力になるのは分かり切っていることだが、それでも一応、わたしの店なのだ。
それなのに、手伝わせてすらもらえないなんて。
「困っちゃいますわよねえ、ユキ」
「ぷぷぅー」
わたしの言葉に同意するように、ユキが鳴いた。
ユキを連れてギルドにやってきたときは、それはもうてんやわんやだったが、数日すれば慣れたのか、初日ほど騒ぐ人はいなかった。あんまりにも騒ぐので、ユキが威嚇した効果もあるだろう。可愛い見た目とは裏腹に、低くて凶悪な声で威嚇するユキは、威嚇の対象でないわたしでも怖かった。
ましてや、情報の少ない聖獣相手だ。何をしてくるかなんて、百戦錬磨であろうランスベルヒの冒険者たちでも、予測がつかない。
結果、皆気になってそわそわはするものの、表立って騒ぐ人も、声をかけてくる人もいなくなった。
今はカウンターの上を陣取り、座って客を待つわたしと会話するように鳴くのが、もっぱらのユキである。
「それにしても、暇ですわねえ」
「ぷーゆー」
最近の修理店は暇だった。というのも、ウィルエールが綺麗さっぱり、修理待ちの術具をさばいてくれたからである。
もともと、ランスベルヒにいるような冒険者が使う術具は高級で質のいいものが多く、魔力切れ以外でそう簡単に使えなくなるものは多くない。
よって、修理待ちの術具が亡くなってしまえば、新たに持ち込まれる術具がない限り、手持無沙汰なのである。
勉強をできればよかったけれど、この島に本屋はない。
ユキが会話をしてくれるおかげである程度退屈はまぎれるが、それでも暇と感じてしまうものは暇だな、と思っていると、ギルド職員が一人、やってきた。
「少しいいかい?」
カゼンである。
「あら、いかがいたしました?」
珍しい。ここに来るのは、術具修理を頼む人間で、それすなわち、冒険者ばかりだった。ギルドの設備である術具が壊れたのだろうか、と思ったがそうじゃないらしい。
「フィオディーナさんにお客さんが来ているんだが……」
「お客様?」
そういって、カゼンが案内されたのは、一人の青年だった。
ギルドの修理店にいるのはわたしだけ。ウィルエールは移転先へ掃除と修繕を師に行った。わたしも手伝う、と言ったのだが、「女神にこんなことをさせるわけにはいかない!」と固辞されてしまった。
わたしだってもうこのギルドに来てから結構経つから、力仕事も、貴族時代に比べて苦じゃない。しかも、わたしの店なのだ。ウィルエールが主力になるのは分かり切っていることだが、それでも一応、わたしの店なのだ。
それなのに、手伝わせてすらもらえないなんて。
「困っちゃいますわよねえ、ユキ」
「ぷぷぅー」
わたしの言葉に同意するように、ユキが鳴いた。
ユキを連れてギルドにやってきたときは、それはもうてんやわんやだったが、数日すれば慣れたのか、初日ほど騒ぐ人はいなかった。あんまりにも騒ぐので、ユキが威嚇した効果もあるだろう。可愛い見た目とは裏腹に、低くて凶悪な声で威嚇するユキは、威嚇の対象でないわたしでも怖かった。
ましてや、情報の少ない聖獣相手だ。何をしてくるかなんて、百戦錬磨であろうランスベルヒの冒険者たちでも、予測がつかない。
結果、皆気になってそわそわはするものの、表立って騒ぐ人も、声をかけてくる人もいなくなった。
今はカウンターの上を陣取り、座って客を待つわたしと会話するように鳴くのが、もっぱらのユキである。
「それにしても、暇ですわねえ」
「ぷーゆー」
最近の修理店は暇だった。というのも、ウィルエールが綺麗さっぱり、修理待ちの術具をさばいてくれたからである。
もともと、ランスベルヒにいるような冒険者が使う術具は高級で質のいいものが多く、魔力切れ以外でそう簡単に使えなくなるものは多くない。
よって、修理待ちの術具が亡くなってしまえば、新たに持ち込まれる術具がない限り、手持無沙汰なのである。
勉強をできればよかったけれど、この島に本屋はない。
ユキが会話をしてくれるおかげである程度退屈はまぎれるが、それでも暇と感じてしまうものは暇だな、と思っていると、ギルド職員が一人、やってきた。
「少しいいかい?」
カゼンである。
「あら、いかがいたしました?」
珍しい。ここに来るのは、術具修理を頼む人間で、それすなわち、冒険者ばかりだった。ギルドの設備である術具が壊れたのだろうか、と思ったがそうじゃないらしい。
「フィオディーナさんにお客さんが来ているんだが……」
「お客様?」
そういって、カゼンが案内されたのは、一人の青年だった。
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