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「って、か、てかさー! フィオディーナ、今日来るの、ノリ気じゃないみたいだったのに、めちゃくちゃしっかりした格好してるじゃん! そんなかわいい服、ランスベルヒに売ってたっけ?」

 少し妙な空気になってしまったのを察したのか、素早くルディネーが話題の軌道修正を図る。
 わたしも慌ててそれに乗っかった。

「ええと……これは、昔から持ってた服で。普段、着る機会がないから」

 今日来ているわたしの服は、エンティパイアから持ってきていた、シンプルなドレスである。
 どうしても手放せなかった、一着のドレス。小さな手持ち鞄の中身を圧迫してしまうだけ、と分かっていたのに、なぜか、一番に詰めたドレスだ。
 エンティパイアにいた頃は普段着としてよく着ていたのだが、こちらに来てからは、術具の道具の修理と宿の往復しかしないような生活で、着る機会がなかったのだ。汚しても困るし。
 一応、ドレスではあるのだが、少し派手なワンピースとも言えるので、折角だから今日来てみた、というわけだ。

「え、普通、そういうのって、男とのデートに着ないかい?」

「…………。……確かに」

 ロルメに言われてみて気が付いた。あれ、『折角着る』というならそのタイミングだよね。なんでわたし、今日着てるんだろう。
 この間ウィルエールと出かけた時に着るのでもよくなかった?
 本当に思いつかなかった、というのが伝わったのか、呆れたようなため息が多方から聞こえてくる。


「今からでも行って来なよ、デート」
「えっ?」

 そう言うマルシが指さす先には、アルベルトがいた。……えっ、アルベルト!?
 彼はこちらが気になるのか、ちらちらと様子をうかがっている。

「な、何故彼がここに……?」

「アルベルトの名誉のために言うが、後をつけてきたわけじゃないからね。僕らより先にいたし、そもそもあいつはここのところ討伐依頼にあちこち行っていたから、今日のこと自体知らなかっただろうよ」

 知ってたらそもそも来るのを邪魔しただろうし、とマルシは言う。ううん、確かにそれは否定できない。

「僕は恋愛しない主義だから、別にフィオディーナさんがいなくなったところで数に齟齬は出ないし。行って来たら」

 マルシはそう言うが、幹事のルディネーはどう思うか……と彼女を見て見れば、きらきらと目を輝かせ、面白いものを見た、と言わんばかりの表情をしている。
 わくわくしているというか、野次馬根性丸出しの顔である。

「わ、わたしだって、その、そう言うことに興味なくってよ。下手に期待を持たせるのも残酷でしょう」

「じゃあこっちに呼ぼ。さっきからちらちら見てるの、気になるし。大人数での食事ならデートにはならないでしょ」

「ちょ、ちょっと!」

 わたしの静止もむなしく、ルディネーはアルベルトを呼びに行ってしまった。
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