39 / 71
36
しおりを挟む
買ってしまった。
わたしの手の中には、串焼きが一本あった。何の肉かは分からないが、タレのかかった肉である。咲奈の記憶の中にある、コンビニで売られている焼き鳥とはサイズが全然違う。
まったくもって、綺麗に食べられる自信がない。
店の隣で、二人並んで立ち食い。貴族時代の知り合いに見られたら笑いものにされること間違いなしである。
ちら、とウィルエールを見れば、遠慮なく串焼きにかぶりついていた。男性はいいなあ。こうして道端で串焼きに食いついても、ちょっと絵になるのだから。
女のわたしが食べたところで、はしたないと言われるのがオチである。
「食べないのかい?」
じっと見ていたのがバレたのか。ばちり、と、目があってしまった。
「た、た、食べますわよ!?」
謎にキレながら、わたしは串焼きを食む。妙に緊張しながら、それを咀嚼した。ここまで来たらもう、立ち食いがはしたないとか言っていられない。一口食べればあとはもう同じである。
「おいしい?」
「……まあ、それなりですわね」
照れ隠し、とかではなく、純粋な感想である。
冒険者ギルドに来てからというもの、明らかにオヴントーラ家で食べていたものより質が落ちているような料理でも普通に食べられるようになっているのだが、やはり依然として舌は肥えたままである。
公爵家であるオヴントーラ家のシェフの腕前と量重視のギルドの食堂のおばちゃんと比べる方がおかしい話でもあるが。
最上を知ってしまっているから、格段においしい! と喜べるほどの味ではない。無論、まずくはないのだが。
ただ、まあ。
また一緒に食べにこよう、とウィルエールに誘われれば、来てしまうのだろうな、と、なんとなく思った。
味こそオヴントーラ家にいたほうのが上だが、毒見を経由してぬるくなった料理を一人で食べるより、こうして温かいご飯を彼と食べる方がずっといい。
うーん、でもやっぱりちょっとまだ恥ずかしいかな。
頻繁に食べに来るなら慣れるべきか……と考えていると、ぐい、と頬に妙な感触が。
振り向いてみれば、ウィルエールがハンカチでわたしの頬を拭いていた。
「女神、頬にタレがついているよ」
そう言う彼の表情は、愛おしくて仕方ない、と言わんばかりのゆるんだ笑みだった。
そんな表情をウィルエールから向けられたこと、幼子の様に口元の世話をされたこと。恥ずかしさがごちゃまぜになって、一気に体温が上がる。
「ど、どうも! ありがとう!」
わたしは恥ずかしさを誤魔化すように、怒鳴って再び串焼きに噛みついた。
ウィルエールが変な喜び方をしているが――深追いするのはやめておこう。
わたしの手の中には、串焼きが一本あった。何の肉かは分からないが、タレのかかった肉である。咲奈の記憶の中にある、コンビニで売られている焼き鳥とはサイズが全然違う。
まったくもって、綺麗に食べられる自信がない。
店の隣で、二人並んで立ち食い。貴族時代の知り合いに見られたら笑いものにされること間違いなしである。
ちら、とウィルエールを見れば、遠慮なく串焼きにかぶりついていた。男性はいいなあ。こうして道端で串焼きに食いついても、ちょっと絵になるのだから。
女のわたしが食べたところで、はしたないと言われるのがオチである。
「食べないのかい?」
じっと見ていたのがバレたのか。ばちり、と、目があってしまった。
「た、た、食べますわよ!?」
謎にキレながら、わたしは串焼きを食む。妙に緊張しながら、それを咀嚼した。ここまで来たらもう、立ち食いがはしたないとか言っていられない。一口食べればあとはもう同じである。
「おいしい?」
「……まあ、それなりですわね」
照れ隠し、とかではなく、純粋な感想である。
冒険者ギルドに来てからというもの、明らかにオヴントーラ家で食べていたものより質が落ちているような料理でも普通に食べられるようになっているのだが、やはり依然として舌は肥えたままである。
公爵家であるオヴントーラ家のシェフの腕前と量重視のギルドの食堂のおばちゃんと比べる方がおかしい話でもあるが。
最上を知ってしまっているから、格段においしい! と喜べるほどの味ではない。無論、まずくはないのだが。
ただ、まあ。
また一緒に食べにこよう、とウィルエールに誘われれば、来てしまうのだろうな、と、なんとなく思った。
味こそオヴントーラ家にいたほうのが上だが、毒見を経由してぬるくなった料理を一人で食べるより、こうして温かいご飯を彼と食べる方がずっといい。
うーん、でもやっぱりちょっとまだ恥ずかしいかな。
頻繁に食べに来るなら慣れるべきか……と考えていると、ぐい、と頬に妙な感触が。
振り向いてみれば、ウィルエールがハンカチでわたしの頬を拭いていた。
「女神、頬にタレがついているよ」
そう言う彼の表情は、愛おしくて仕方ない、と言わんばかりのゆるんだ笑みだった。
そんな表情をウィルエールから向けられたこと、幼子の様に口元の世話をされたこと。恥ずかしさがごちゃまぜになって、一気に体温が上がる。
「ど、どうも! ありがとう!」
わたしは恥ずかしさを誤魔化すように、怒鳴って再び串焼きに噛みついた。
ウィルエールが変な喜び方をしているが――深追いするのはやめておこう。
0
お気に入りに追加
1,470
あなたにおすすめの小説
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる