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 ウィルエールの冒険者登録を済ませ、わたしはフィオディーナ修理店へと彼を案内していた。

「ここがわたしの活動拠点ですわ。ほとんど一日をここで過ごしているので……話に聞くような冒険者生活はできませんよ?」

 結局、冒険者登録をすると同時に、わたしとパーティーを組む申請までウィルエールはしてしまった。

「ぼくは女神と一緒にいたいだけだからね。別に冒険者がしたいわけじゃない。王宮術士長と一緒だよ。それに……」

 ウィルエールはぐるりと辺りを見回す。

「術具の修理ならぼくも得意だしね」

 得意、どころか王宮術士はそれも仕事だろう。術士長にまでなればまた少し変わってくるが、平の術士の仕事は王宮内の術具の点検修理もその一つで、彼も通ってきた道のはず。
 本職がいるというのは心強い。

「ちなみに、ウィルならここの術具たちはどのくらいで直せますの?」

「うーん、長く見積もっても三日もあれば終わると思うよ」

「流石……」

 わたしだけならまだまだかかりそうだったし、むしろいくつかは直せないまま置いておくことになっていたはずだ。

「なんなら四日後くらいには新しく術具の販売まで出来るだろうね。申請をしていないから、簡単なものだけだけれど」

 棚に置かれた術具をひとつづつ、何かを確かめるように見ながら、ウィルエールは何でもないように言った。
 すごすぎて間抜けな声しか出ない。いや、そんな情けないこと実際にはできないけれど。
 制作や販売の許可が必要な術具も、許可さえあればきっと彼なら一人であっさり作ってしまうのだろう。
 すごい、とほめたたえたくなるのと同時に、少しだけ、黒い感情が腹の底にくすぶる。
 わたしが試行錯誤して頑張って修理してきた日々が無駄だったように思えて。
 わたしの仕事量は減るし、術具は無事にまた使えるようになっていいことづくめなはずなのに。
 死ぬほど努力して、頑張って、ようやくできたことをあっさりとトゥーリカに越されてしまったみじめさを思い出す。わたしが頑張ったね、と褒められる前に、あの子があっさりとやってのけて、すごいね、ともてはやされるのだ。
 まあ、このことに関しては仕方がない。
 わたしよりもウィルエールの方が術具や魔術に優れている。そもそもそれを職にするくらいの男だ。かじっただけの知識しかないわたしと比べようとするほうがどうかしている。

「フィオディーナ嬢」

 修理中、と置いてあった術具の検分が終わったのだろうウィルエールがわたしに向かって歩いてくる。

「頑張ったね。流石、フィオディーナ嬢だ。経験もなく、頭にある知識だけでよくここまでやったものだよ」

 わたしの努力を認める言葉に、どく、と心臓が高鳴る。
 お世辞だろうか。いや、この人は普段、ぺらぺらとわたしへの賛美の言葉を並べようと、術具に関しては妥協しない人だ。
 わたしの教師のようなまねごとをしてくれていた時も、そうだったじゃないか。
 欲しかった言葉に、うれしくなって胸が締め付けられる。さっきまでの黒い感情はすっかり霧散していた。簡単な女だ、と笑ってしまいたくなるほど。

「お疲れ様。明日からは、ぼくと一緒にまた頑張ろう」

 そう言いながらわたしの頭をなでるウィルエールの手は、かつての記憶にある頃より、随分と男になったそれだった。
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