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もう二度と会うことがないだろうと思っていたウィルエールの登場に、わたしの頭は思考を停止した。
えっなんでいるの?
どうして、という疑問だけが頭を支配するわたしをよそに、ウィルエールはこちらにこようとしてギルドの職員に止められていた。
確かにここは冒険者専用の食堂なので、ギルドに冒険者登録していないと立ち入りが出来ない。
ちなみにマルシも冒険者登録をしているらしい。商人としてギルドに出入りする際に、ついでにいろいろと施設を利用したいから登録しているだけなので、わたしと同じ下級冒険者らしいが。
閑話休題。
だからこそ、ウィルエールはここに入ることが出来ないのだが……なるほど、さっきから騒がしかったのは無理に冒険者専用区画に入ってわたしを探そうとしていたウィルエールと、規則に従って追い返そうとしていたギルド職員の攻防が繰り広げられていたからだったか。
まだわたしのトレイの上には半分くらい残ったご飯が載っている。
食事中に席を立つのは行儀が悪いが、かといって目が合い、話しかけられた以上、無視してご飯を食べ進める気にもなれなかった。
わたしは立ち上がると入口へと歩み寄る。
目の前に立てば、手を伸ばせる距離に、ウィルエールがにこにこと笑顔で立っていた。
「……本物? 実在してる?」
思わずわたしはそうつぶやく。
そうすると、ウィルエールはわざわざ跪き、わたしの手を取った。
まるで、童話の王子様が、お姫様にするように。
「本物のウィルエール・サルディムだとも。女神を追ってぼくはここまで来たんだよ」
「わたしを……? え、ウィル、貴方、王宮術士長はどうしたの」
「辞めた」
わたしの質問に、ウィルエールはあっさりと、なんてことないように言ってのけた。
「王宮術士長になったのは、貴女のそばにいるためだからね。王妃ともなる令嬢に近づける男は限られてくる。ぼくは、数少ないその席に座るために王宮術士長になったんだ。でも、女神がいないならそこに座り続ける意味はない」
驚いて何も言えないわたしに、「ちゃんと引き継ぎは済ませてきたよ」とウィルエールは笑うが、そういう問題ではない。
「でもまあ、もうそんなことを気にしなくていいのは嬉しいね。正々堂々、正面から口説いても誰にも文句を言われないし、罪にもならない」
「は……」
まさかの言葉に理解が追い付かない。
ウィルエールからわたし――というかフィオディーナへの好意って、そういうものだったの!? 『わたし』は普通に友達だとばかり……と、フィオディーナの記憶をたどってみると、びっくりするほど最初からそういう態度だったウィルエールの好意に気が付いていなかった。
鈍感にもほどがある!
わたしがあわあわしていると、彼は「これからよろしく頼むよ、女神」と言って、わたしの手の甲にキスをした。
きゃあ、という、ことの成り行きを見ていたのであろう女性ギルド職員や女性冒険者の黄色い悲鳴を、どこか他人事のように聞いているわたしがいた。
キャパオーバーともいう。
えっなんでいるの?
どうして、という疑問だけが頭を支配するわたしをよそに、ウィルエールはこちらにこようとしてギルドの職員に止められていた。
確かにここは冒険者専用の食堂なので、ギルドに冒険者登録していないと立ち入りが出来ない。
ちなみにマルシも冒険者登録をしているらしい。商人としてギルドに出入りする際に、ついでにいろいろと施設を利用したいから登録しているだけなので、わたしと同じ下級冒険者らしいが。
閑話休題。
だからこそ、ウィルエールはここに入ることが出来ないのだが……なるほど、さっきから騒がしかったのは無理に冒険者専用区画に入ってわたしを探そうとしていたウィルエールと、規則に従って追い返そうとしていたギルド職員の攻防が繰り広げられていたからだったか。
まだわたしのトレイの上には半分くらい残ったご飯が載っている。
食事中に席を立つのは行儀が悪いが、かといって目が合い、話しかけられた以上、無視してご飯を食べ進める気にもなれなかった。
わたしは立ち上がると入口へと歩み寄る。
目の前に立てば、手を伸ばせる距離に、ウィルエールがにこにこと笑顔で立っていた。
「……本物? 実在してる?」
思わずわたしはそうつぶやく。
そうすると、ウィルエールはわざわざ跪き、わたしの手を取った。
まるで、童話の王子様が、お姫様にするように。
「本物のウィルエール・サルディムだとも。女神を追ってぼくはここまで来たんだよ」
「わたしを……? え、ウィル、貴方、王宮術士長はどうしたの」
「辞めた」
わたしの質問に、ウィルエールはあっさりと、なんてことないように言ってのけた。
「王宮術士長になったのは、貴女のそばにいるためだからね。王妃ともなる令嬢に近づける男は限られてくる。ぼくは、数少ないその席に座るために王宮術士長になったんだ。でも、女神がいないならそこに座り続ける意味はない」
驚いて何も言えないわたしに、「ちゃんと引き継ぎは済ませてきたよ」とウィルエールは笑うが、そういう問題ではない。
「でもまあ、もうそんなことを気にしなくていいのは嬉しいね。正々堂々、正面から口説いても誰にも文句を言われないし、罪にもならない」
「は……」
まさかの言葉に理解が追い付かない。
ウィルエールからわたし――というかフィオディーナへの好意って、そういうものだったの!? 『わたし』は普通に友達だとばかり……と、フィオディーナの記憶をたどってみると、びっくりするほど最初からそういう態度だったウィルエールの好意に気が付いていなかった。
鈍感にもほどがある!
わたしがあわあわしていると、彼は「これからよろしく頼むよ、女神」と言って、わたしの手の甲にキスをした。
きゃあ、という、ことの成り行きを見ていたのであろう女性ギルド職員や女性冒険者の黄色い悲鳴を、どこか他人事のように聞いているわたしがいた。
キャパオーバーともいう。
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