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 わたしの、おそらく最初で最後の冒険者としての冒険を終え、ランスベルヒに戻ってきていた。

 フィオディーナ修理店を開けていたのは一瞬間程度なのに、修理待ちの術具は増えていた。まだ最初に積まれていた術具たちの修理もすべて終わっていないというのに。
 誰も彼も、術具の扱いが雑なのか、と言えばそうでもない。魔力のこめ直しが出来ない人間ばかりが術具を使うのが悪いのだ。
 今までよくもまあ、それで冒険者として成り立っていたと思うが、魔力切れの後は普通に武器として使っていたそうだ。
 手に余るようなものを買うな、と言ってみたが、冒険者としての憧れだから、と皆、口をそろえて言う。わたしにはその考えが分からない。

 しかも帰ってきてから数日。わたしの作業スピードは、一週間前より落ちていた。
 それも。

「おい、フィオディーナ、これは何の術具だ? どんな効果があるんだ?」

 これも。

「バッッッカお前、なんて口きいてるんだ、おま、お前!! 申し訳ありません、オヴン……ん、んんっ、フィオディーナ様! ほらお前も謝れ!」

 全部。

「おいお前ら! フィオディーナ嬢の邪魔をするんじゃない! さっさっと……うわ、うわあああ!」

 邪魔をする三兄弟がいるせいである!

「うるさいですわ! 邪魔をするなら出て行ってくださいまし!」

 わたしは抗議の意を込めて机をたたくと、次男が慌てて長男と三男を引きずって、フィオディーナ修理店を出ていく。
 長男がひっかけて倒した木箱を戻し、ぶちまけられた中身の道具を、木箱にしまいながらわたしはため息を吐いた。
 ちなみにこれは、本日三回目のやり取りである。


 三兄弟はエンティパイアの宰相一族、ヴァイセン家の兄弟である。
 長男はコウンベール・ヴァイセン。天然な性格が目立ち、貴族として大丈夫かと思わず心配するほど素直だ。かなりの努力家でありながら、どこか抜けていて実力を十全に発揮できない男である。
 次男はグリオット・ヴァイセン。三兄弟の中では一番の常識人であるが、声がでかくて兎に角体育会系であり、こちらも貴族として大丈夫かと心配になるほど落ち着きがない男だ。
 三男はオルキヘイ・ヴァイセン。誰とでもすぐに打ち解けられる、人懐っこいところがある――と言えば聞こえはいいが、なれなれしく、空気を読めない、これまた貴族として心配になる男だった。

 外部とあまり交流がないエンティパイアの筆頭貴族の血筋である三人がなぜランスベルヒにいるか、と言えば『留学』の一環である。
 まれに例外はあるものの、基本的には王族と宰相一族にのみ留学が認められており、外の世界を学ぶために各国を訪れる。長男は第一王子の、次男は第二王子の、そして三男は第三王子の『ご学友』ということになっているが、王子がいずれ王となれば、彼らの中の誰かが宰相となり、王を支えることとなるのだ。
 例年であれば、決まった国に決まった期間のみ、ということだったが、今年は冒険者の層を厚くする、という王の意向により、強い冒険者が集まるランスベルヒの視察に来た、ということだった。

 と、いう話だったのだが。


「なあ、これはなんだ?」

 次男の手から逃れてきたのか、再びやってきた三男――オルキヘイ。わたしは思わず持っていた術具の杖を折りそうになった。わたし程度の力で折れてしまうほど貧弱な杖でなくてよかった。
 興味深そうにオルキヘイは、並べられた修理待ちの術具を眺めている。
 まだ昼前だというのに、本日四回目。普通にキレそう。怒鳴り散らすのは令嬢としていかがなものか、と一瞬思ったけれど。

 わたし、もうエンティパイアから追放されて貴族じゃないし。そもそもわたしは怒鳴り散らすタイプの女だった。
 思い出せ、ヒステリックだった頃を。それで追放されたんじゃないか。
 ただ八つ当たりしていたのとは違う、正当な抗議である。
 もう怒ってよくない? キレ散らかしてよくない?
 でも相手は貴族。わたしは追放された以上平民。ただ、ここ、ランスベルヒは国じゃない。彼の身分を保証するものは何もない。
 どうしようか、とイライラしながら考えを巡らせていると、コン! と入口の扉がノックされる。

 そこに立っているのはアルベルトだった。
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