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20.5

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「ようやく見つけたか……」

 エステローヒの西側にある、ロッゼ村。
 その農村に、一人の男が足を運んでいた。
 昨晩までは一匹のスレムルムが荒らしていたその畑に、今晩は男が足を運ぶ。
 スレムルムが退治されたからと、安心して植えなおされたのであろう作物を、男は容赦なく引っこ抜く。
 土をほじくり返していると、目的のものを掘り起こすことに成功した。
 テリーベルらが再度埋めなおした、あの小箱である。
 エンティパイアの王城と宰相宅、公爵家およびその領内に、グルトン王家の敷地内。そして、このロッゼ村の畑。
 心当たりのあるところ全てに使役魔をけしかけ、しらみつぶしに探した結果、小箱はこの畑に埋められていた。
 スレムルムがそのまま持ち帰ってくれればよかったのだが、見つかっただけで充分だ。当初の目的は果たされている。

 男は小箱の蓋を開けると、中身のブローチを取り出す。
 愛おしそうにそのブローチを数度なでると、男は自身の胸ポケットにそのブローチを収めた。
 何十年と探し求めたブローチ。そのブローチが、今、自らの手にある。
 男は興奮し、涙すら、その目に浮かべた。

「最初から、俺にくれればよかったのに。そうしたら、こんな結果にはならなかった。俺なら、君を守りきってみせたのに」

 ――それなのに、君はこんな男にこのブローチを渡したのか。
 男は、かつてこのブローチを渡されたであろう奴のことを思うと、腹の底から怒りがわいてきた。
 衝動のまま、辺りの作物を蹴り飛ばし、踏みにじる。
 ただの八つ当たりということは分かっていた。ここの畑の所有者は、あの男の子孫であれど、きっと何も知らない。
 ああ、いや、でも、むかついて仕方はない。
 あの子を助けなかった屑が、別の女を嫁に貰って、子供をこさえて。のうのうと生きているなんて。

 ――あの子は死んでしまったのに。あいつらのせいで。

「はぁ……はぁ……」

 どうしようもない怒りに、男の息が荒くなる。やり場のない怒りが、男の腹の中をぐるぐると駆け巡った。
 落ち着け。大丈夫。
 このブローチがあればやり直せる。
 あの頃とは少し違うけれど、それは立場と皮が違うだけ。中身が一緒なら、彼女は彼女だ。

「全部が戻ったら、一緒に復讐をしようね、フィリネ」

 かつての約束を胸に、男はポケットの上から、ブローチを強く握りしめた。
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