上 下
20 / 71

18

しおりを挟む
 スレムルムの死体と直面しても、思ったほど拒絶反応は出なかった。
 うわっとは思うけれど、吐き気をこらえなければいけないほど気持ち悪いというほどでもない。合瀬咲奈時代に、車に引かれた動物や鳥を見ていたからかもしれない。
 暴れて傷口が広がっているわけでもないスレムルムは、そこまでグロテスクではなかった。
 それよりも気になるのは――。

「なんだか小柄、ですね……? こんなもんなんですか?」

 事前に聞いていた話から想像していたよりも、ずっと小さかった。
 写真のようなものを見たわけではなく、大体このぐらい、というジェスチャーで大きさを教えてもらっていただけなので、わたしの想像とは、そりゃあ誤差があるだろうが、それにしたって小さい。
 わたしは実際にスレムルムを見るのが初めてだが、残りの三人はそうではない。

「これは小柄ではない。やせ細っているから小さく見えるだけだ」

 ダリスの言葉に、わたしは再度スレムルムを見る。
 パッと見ただけでは気が付かなかったが、確かにやせ細っているようだ。
 いくら気分が悪くならないとはいえ、血まみれの死体をじっくり観察する気にはならなかったので分からなかったが、うっすらと骨が浮き出ている。
 餓死寸前、とまではいかないが、ここまで痩せていたらよほど腹が減っているだろうに。
 そう考えると、作物を食べずに畑を荒らすだけ、というのは異常行動に見える。

「これ、誰かの使役魔だったりしない?」

 確かに、野生ではなく、使役されている魔物であれば本能よりも主人からの命令に従うしかないだろう。
 それならば、食べ物に目もくれず探し物をしていた理由もまだ納得がいく。
 しかしテリーベルの言葉に異を唱えたのはダリスだった。

「わざわざスレムルムを使役魔にするか? 普通はしない。もっと強い魔物にするだろう。スレムルム程度しか使役できないような奴は端から魔物を使役しようとしないはずだ」

「それはそうかもしれないけど……」

 反論されて、不満げにテリーベルが口を尖らす。
 わたしはテリーベルの仮説が正しいと思ったけれど、現場を知る人間からしたらそれは不自然なことらしい。冒険者内では、よく使役される魔物や、使役魔に適した魔物というものが決まっているらしい。
 もちろん、なんにでも例外というものはあるので、それ以外の魔物を使役魔にする人間の噂くらいは聞くらしいが、このエステローヒや、その周辺ではいないようだ。

「だとするともっと遠くから来た人の使役魔……とか?」

 試しにそう言ってみるが、「何のためにわざわざ?」とダリスに言い返されてしまった。
 わたしは知らないが、探し物に長けている魔物は他にもたくさんいて、スレムルムを使う利点はないそうだ。
 わたしたちがあれこれ言い合っていると、スレムルムが漁っていた地面を調べていたファルドが声をあげた。

「下級冒険者に処分させるためじゃないか」

 物騒なことを言い出したファルドの手には、土にまみれた小箱があった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

婚約者が不倫しても平気です~公爵令嬢は案外冷静~

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢アンナの婚約者:スティーブンが不倫をして…でも、アンナは平気だった。そこに真実の愛がないことなんて、最初から分かっていたから。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました! でもそこはすでに断罪後の世界でした

ひなクラゲ
恋愛
 突然ですが私は転生者…  ここは乙女ゲームの世界  そして私は悪役令嬢でした…  出来ればこんな時に思い出したくなかった  だってここは全てが終わった世界…  悪役令嬢が断罪された後の世界なんですもの……

【二部開始】所詮脇役の悪役令嬢は華麗に舞台から去るとしましょう

蓮実 アラタ
恋愛
アルメニア国王子の婚約者だった私は学園の創立記念パーティで突然王子から婚約破棄を告げられる。 王子の隣には銀髪の綺麗な女の子、周りには取り巻き。かのイベント、断罪シーン。 味方はおらず圧倒的不利、絶体絶命。 しかしそんな場面でも私は余裕の笑みで返す。 「承知しました殿下。その話、謹んでお受け致しますわ!」 あくまで笑みを崩さずにそのまま華麗に断罪の舞台から去る私に、唖然とする王子たち。 ここは前世で私がハマっていた乙女ゲームの世界。その中で私は悪役令嬢。 だからなんだ!?婚約破棄?追放?喜んでお受け致しますとも!! 私は王妃なんていう狭苦しいだけの脇役、真っ平御免です! さっさとこんなやられ役の舞台退場して自分だけの快適な生活を送るんだ! って張り切って追放されたのに何故か前世の私の推しキャラがお供に着いてきて……!? ※本作は小説家になろうにも掲載しています 二部更新開始しました。不定期更新です

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

【完結】貴方たちはお呼びではありませんわ。攻略いたしません!

宇水涼麻
ファンタジー
アンナリセルはあわてんぼうで死にそうになった。その時、前世を思い出した。 前世でプレーしたゲームに酷似した世界であると感じたアンナリセルは自分自身と推しキャラを守るため、攻略対象者と距離を置くことを願う。 そんな彼女の願いは叶うのか? 毎日朝方更新予定です。

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

処理中です...